内容説明
六朝時代以前の古い語り物の例として、「燕丹子」(荊軻の始皇暗殺の物語)などを翻訳。原文も掲載し、語りのリズムの痕跡を追究する。また、「捜神記」や「幽明録」といった「志怪小説」の生みの親「列異伝」の逸文50種を翻訳収録。志怪小説と語り物が相互に与えた影響を見る。最後に、唐代の「鴬鴬伝」などを翻訳し、六朝志怪から唐代伝奇まで、あらゆる話を集めた「太平広記」と比較することで「列異伝」の特徴を考察する。
目次
第1章 古代中国の語り物三種(本章の読み方について一言;中国最古の語り物;司馬遷の聞いた語り物 ほか)
第2章 志怪の生みの親となった「列異伝」(「列異伝」の逸文五〇種の主題について;六朝志怪の文体と伝説の記し方について;「列異伝」の逸文に残された話に見る序破急の三段構成について ほか)
第3章 隋唐代における語り物と小説との関係(推薦制度の弊害と科挙の実施について;初唐期の小説と語り物;唐代伝奇と語り物 ほか)
著者等紹介
高橋稔[タカハシミノル]
1936年東京都に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科中国文学専攻博士課程単位取得退学。私立武蔵学園高等学校教諭を経て、1974年東京学芸大学講師、翌年助教授、1977年教授就任。1993年山形大学教育学部教授。2001年定年退職。語り物研究者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
スターライト
9
語り物芸人と呼ばれた職業人による「語り物」と三世紀中ごろに民間に広く語られていた話をまとめた「列異伝」の紹介、隋唐代の語り物と小説の関係を論じた書。残された文章の中から文の句切りとそれを証拠立てる外部資料から語り物と判断したものを説明したくだりでは、実際の旋律は「再現」できないもののなんとなくリズムは感じ取れた気がした。「列異伝」では神・妖怪・鬼などの物語の数々に古代中国人の想像力の豊かさを実感した。おそらくこれらの物語が日本にも伝わり、その影響で少なくない作品が生み出されたのではと思うと感慨深い。 2018/01/22
アル
1
士大夫層の高尚な書物より一歩庶民に近づいた物語を残そうとする営みと、それを残された文献から見出そうとする著者の志向が伺える。 漢詩ほど平仄や押韻にこだわらないが同じ長さの言葉を連ねた文から「語り物」のリズムを見出す第一章、民間の伝説を集めて後の志怪小説のルーツとなった『列異伝』の成立と内容を考察する第二章、「志怪」小説から普通の人間社会の出来事を主題にした創作物語としての唐代伝奇の発生と語り物の関係を説いた第三章で構成。2018/05/04