内容説明
密猟者と伝承の土地、瑞々しく緑深い米国深南部へようこそ。本書は、フォークナーやカポーティの伝統に連なる、輝かしい才能の誕生を告げた秀逸なデビュー作品集!少年時代を回想する心に響く序文を幕開けに、賭博の借金を種に工場の闇操業を強いられた男の苦境をスリリングにたどって間然するところのない逸品「グリット」、過去と現在の挿話を積み重ねた果てに、深い孤独が胸をつく「シュブータ」、静かな余韻を残すある朝の一幕劇「青い馬」、そして、密猟者の三兄弟と狩猟監視官の暗闘を活写してアメリカ探偵作家クラブ最優秀短編賞に輝いた表題作など、密度の高い物語が想像力をかきたてずにはおかない、鮮烈多彩な短編の精華。
著者等紹介
フランクリン,トム[フランクリン,トム][Franklin,Tom]
1963年、米国アラバマ州に生まれる。少年時代はスティーヴン・キングやエドガー・ライス・バローズの小説に熱中、サウス・アラバマ大学在学中には、グリット工場の重機運転手、化学工場建設現場監督、病院の霊安室の職員などを経験した。98年にアーカンソー大学で芸術修士号を獲得。大学で創作科を教えながら、妻で詩人のベス・アン・フェンリイと暮らしていたが、99年に『密猟者たち』で作家デビュー、MWA最優秀短編賞に輝いた
伏見威蕃[フシミイワン]
1951年生まれ。早稲田大学商学部卒業。英米文学翻訳家
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感想・レビュー
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ずっきん
72
米国南部を舞台とした短編集。『トライアスロン』『青い馬』が好み。だが、ダントツはやはり『密猟者たち』重くのしかかってくる情景。密猟者三兄弟を憐れみ、ほぼ描写されない狩猟監視官の存在感に戦慄する。鬱蒼とした鈍い色彩の中で、潜めたはずの自分の息づかいがやたらと響き、いっそ大声で悪態を吐きたくなる。耐えられるか。実は、途中で最後に収められている表題作へといったん飛んだ。このままでは一番読みたい表題作まで辿り着けないかもと危惧してしまったほど、全編メタファー無しで、南部の匂いがどストレートにズドンとくる。2021/05/11
タツ フカガワ
33
著者の故郷アラバマ南部を舞台に、少年期から接してきたハンティングの複雑な思いを綴った「序 ハンティング・シーズン」(面白いです)を含め全11編の短編集。なかでは表題作が群を抜いて面白かった。密猟で暮らしている三兄弟だが、周囲は暗黙のうちに彼らを許していた。ところがある時を境に凶暴で知られる伝説的密猟監視官が三兄弟を標的にする。肌に張り付くような湿地帯の描写や、一種ノワール的緊張感、それに実体を現わさないまま膨らむ密猟監視官の恐怖など、濃密なドラマに酔った作品でした。2021/08/14
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22
アメリカ人ですら、一口に「南部」といえども、その地理的な線引きには色々な想いがあるそうだ。つまりそれだけ個人的な「南部」があり、作者のトムフランクリンにとっての南部は「アラバマ川からトムビグビー川の間の森の国」ということになる。物語の揺籃として底が見えない豊かさを持つこの土地で、沼マムシや大ナマズや気の狂った犬と小さな工場労働者が共生している。この短編集は表題作「密猟者たち」目当てで買ったが冒頭の「序 ハンティングシーズン」と「グリット」も素晴らしかった。「アラバマ物語」ではなく「脱出」の南部が近いか。2021/04/14
アプネア
21
MWA最優秀短編賞作を含む10作の短編集。野生動物や自然への憧憬と畏怖。銃やナイフなどの武器への執着。寂れた工場群など、南部、貧乏白人文学とでもいうのか。トランプ政権を誕生させた、萌芽のようなくすぶりもみられ。厳しさと感傷とを通奏低音にしたあらゆる意味での闘争の物語・・・。お気に入りは、「グリッド」、博打の借金を苦に闇操業を強いられた男の苦境。「密猟者たち」、密猟者の三兄弟と伝説の監視者の暗闘を描く。2021/03/31
秋 眉雄
20
『エスターは五十になる。夫を二度持ち、六人の子供がいた。すべて彼女のもとを去り、なおかつ恨んでいる。』短編が11入っていますが、時代設定がいつだろうと密造酒の味と香りがします(呑んだことも、見たこともないですが)。容赦というものの入りこむ隙間のない表題作で最終話の『密猟者たち』がやっぱりイイです。しかし一番イイなと、グッとくるなと思ったのは序章である『序/ハンティング・シーズン』でした。ザ・南部といった趣深さ。2017/09/01
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