内容説明
1948年。戦後のパリで、シュルレアリスムの巨星アンドレ・ブルトンが再会を約した、名もない若き天才。彼の創りだす詩は麻薬にも似て、人間を異界に導く途方もない力をそなえていた…。時を経て、その詩が昭和末期の日本で翻訳される。そして、ひとりまたひとりと、読む者たちは詩に冒されていく。言葉の持つ魔力を描いて読者を翻弄する、川又言語SFの粋。日本SF大賞受賞。
著者等紹介
川又千秋[カワマタチアキ]
1948年、北海道小樽市生まれ。作家、評論家。慶應義塾大学文学部卒。学生時代よりファン活動を始め、SF専門誌で評論を発表。『火星人先史』で第12回星雲賞を、『幻詩狩り』で第5回日本SF大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
- 評価
本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
58
戦中、アンドレ・ブルトンが出会った一人の詩人。1948年パリにて彼は再び詩人に巡り合おうとするのだが…。人が使うはずの言語が逆に人間を支配するという発想はパイソンや『虐殺器官』など数多いが、本書で一番手に汗握らされるのは詩を読んだシュルレアリストの反応やそれが拡散されていく過程。特に日本の出版関係者の間で徐々に広まっていく様は下手な感染系ホラー顔負けである。ラストは少々こじんまりしているように思ったが、大風呂敷畳むのには多少の予定調和は仕方ないのかな。とあれ言語SF、ホラーとしては出色の出来でした。2025/10/04
藤月はな(灯れ松明の火)
57
シュルレアリスム最盛期のパリで注目されていたのは東洋系フランス人の紡いだ詩『時の黄金』。その詩にはある噂が付き纏っていた。『時の黄金』を読んだ者はその言葉に耽溺し、やがて死んでしまうという・・・。詩に込められていたのは時空や肉体という器を超越し、何処にでも行けて見られる力。そしてその力を存分に発揮できるのは人間の想像力と自省とドッキングした時だけというのが巧みだ。そして日本の翻訳界から徐々に人間生活へ侵食したり、火星でのコンタクトはホラー的。ラストは時空は繋がった上、時は循環したという事なのだろう。2024/11/15
はらぺこ
35
読み易かった。 自分にはSFの知識が全く無いのでホラー小説を読んでる気分でした。2015/02/07
みなみ
27
読んだ者は皆魅了させられてしまい、やがて異界へと導かれてしまう詩集をテーマとしたSF。日本の出版社がひょんなことから、この危険な詩を翻訳して出版することとなり、内容が広まっていく。国の機関による高圧的な取締りが行われる様子は、退廃的な雰囲気もあって興味深かったし、実際にそんな詩集があれば自分も読みたくなってしまいそうだ。2024/04/27
田氏
25
ドゥバド。ハヤカワの某異常な論文にて、作中作の言語SFを「『幻詩狩り』があれば不要な作品群」と評価する場面があって、つまりは言語SFの系譜を振り返ったときのメルクマール的な作品なのかな、と解した。とは言っても、ハードな理詰めではなく、言語学や認識論に切り込むことになりかねない部分は、うまくぼやかされている。ドゥバド。登場するシュルレアリストたちはブルトン始め実在で、生きざま死にざまも史実に沿っているから、ひとり登場するたびにwikipediaに脱線して行ったり来たりドゥバんダりするのもまた一興。ドゥバド。2022/07/21