内容説明
1981年、一組の夫婦が火星へ出発した。直後に核戦争が勃発、地球を回る衛星と化した植民ロケットからの放送のみが、人びとの情報のよりどころとなった。各地に点在するコミュニティーのひとつでは、かつて核実験に失敗し人びとの憎しみを集める物理学者、超能力をもつ肢体不自由者の修理工、双子の弟を体内に宿す少女らが暮らしていた。ディック中期の異色作を待望の新訳で刊行。
著者等紹介
佐藤龍雄[サトウタツオ]
1954年生まれ。幻想文学翻訳家
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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- 評価
伝説の文庫レーベル本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
催涙雨
51
「本書はディック唯一の〈核戦争もの〉長編なのだ(解説)」言われてみればたしかにそうなのだが、なぜかあまりそういう感じはしない。起伏に乏しい作風も異質な印象が目立ち、全体としても珍しい要素の多い作品なのだが、異色作を読んでいるという感じはそれほどなかった。放射線に影響を受けた生物や退廃的な世界のイメージはディック作品を取り巻くファクターとしてはそこそこ見かけるものなので、そういう印象に留まったのかもしれない。とはいえ、核戦争後の世界で営まれる生活を静的な筆致で描いた本作がディックSFのなかで特殊な位置付けに2020/03/22
GaGa
41
ラストは大友克洋の「童夢」のような展開になるかと思ったが、案外あっさり目だった。少しがっかり。しかし、なかなか楽しく読める作品で、エディとビルの関係性は、作者自身が生まれた時が男女の双子で、出産後すぐに妹が亡くなったことをモチーフとして構築されたのではないかと思ってしまった。なるほどホッピーは後の「怒りの神」の老画家のモデルも兼ねているのか、納得。2012/01/28
ボーダレス
15
核戦争後の災厄を二癖、三癖もアクのあるキャラ達が繰り広げる復興ドラマ的な展開なのだが、憑依や念力といったPKD流ガジェットを使い、物資が乏しい状態での人間の奥底に潜む意識を描いていて、一風変わった終末ものとして楽しめた。2019/02/11
roughfractus02
6
核戦争後の世界は古典派経済学的世界だ。物々交換で回る日常生活では、暴力による奪い合いで生じる原始的蓄積は起こらない。他の作品なら作者がランダムなディストピアに因果性を求める際に持ち出す偽の神と隠された神の争いという宗教的次元もない。その代わり、人々が希望を託す宇宙飛行士が宇宙船からラジオ番組を流し続けている。映画『博士の異常な愛情』にインスパイアされたというブルートゲルト博士だけが、核戦争は自分のせいだと妄想を続ける因果的世界にいる。一方、人々は放射能の影響で様々な変種が生まれ、人間概念は変容している。2020/05/22
Toshiyuki S.
5
核戦争後の世界において、主要な通信・交通手段が失われたことで、孤立したコミュニティで生きる人々の生活が描かれる。端的にいえば群像劇で、ストーリーにそれほど起伏はなく、主題を読み取ることも難しい。全体として世界がこれからよくなるという期待は持てず、しかし今を生き抜くために人同士は愛情で結ばれる以外にはなく、他方で愛情をもってしてもどうすることもできない問題が前方に立ちはだかっている。そのような状況でも自暴自棄にならず地に足を付けて生きていくことの大切さをディックは伝えたかったのかもしれない。2023/07/26
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