出版社内容情報
十年ほど前から兆候を見せていた世界的な旱魃は、ここ五ヶ月のあいだ、各地で急速に文明社会を崩壊させつつあった。マウント・ロイヤル市の住人たちが競うように水を求めて海岸へと殺到する中、医師ランサムは市内にとどまり破滅まで引き延ばされた時間を緩慢と生きていたが……生物を拒絶するように変質してゆく世界のランドスケープを、叙事的な文体で超現実の絵画のように描く。〈破滅三部作〉の一角を為す『燃える世界』を著者自らが徹底改稿し、改題した傑作。本邦初訳。
内容説明
十年ほど前から徴候を見せていた世界的な旱魃は、各地で急速に文明社会を崩壊させつつあった。人々が競うように水を求めて海を目指す中、医師ランサムはハウスボートの船上で、破滅までの残された時間を緩慢と生き続けていた…。生物を拒絶するかのごとく変質する世界をシュルレアリスム絵画のように描き出した、“破滅三部作”の一端をなす『燃える世界』の完全版、本邦初訳。
著者等紹介
バラード,J.G.[バラード,J.G.] [Ballard,J.G.]
英国を代表する作家。1930年、上海生まれ。SFの新しい波運動の先頭に立った。2009年没
山田和子[ヤマダカズコ]
1951年福岡県生まれ。慶應義塾大学中退(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
73
バラードは久しく忘れていたが、世界が緩慢に破滅していくドラマを云十年ぶりに堪能した。自然の圧倒的な力の前に政治も軍事も科学も無意味になりながら、それでも生にしがみつきあがく人びとの有様は戦争や虐殺が主題の作品よりも胸に迫る。SFというよりスペクタクルのない災害を描く小説だが、希望が失われた時代をどう生きるかを問いかける。ハイテク化と格差拡大が進み民主主義への信頼が失われつつある今の時代、バラードの「SFは外宇宙より内宇宙をめざすべき」との主張を具現化した半世紀以上前の作品が現代的な意味を持って甦ってくる。2021/05/05
Vakira
58
バラードさんの小説を執筆順に読んでいる。狂風、沈んだ世界ときて今回は旱魃。ここでも人類は旱魃となった自然世界に対し、抗うのか、受け入れるのか、逃げるのか。人類のとる行動パターンは類似している。今回はちゃんと旱魃となった理由があります。雨が降らない理由は海の水が蒸発しないから。油膜の様な液体が世界の海を覆い、水分が蒸発しないのだ。よって雲が出来ず、陸の湖、河は干乾び、淡水の水棲生物はどんどん死に絶えていく。森は枯れ、砂漠へと変貌しつつある。さて、人類の進化の再現。地元の地で踏ん張るか?楽園を探しに彷徨うか?2026/02/23
塩崎ツトム
18
思索し、土地の記憶(景観・借景)を保持し、見立てることは本来特権階級のたしなみであり、数十万年にわたる石器時代の中、人類は一つの歯車として生きなければならず、その時には花の美しさも語られることはなかっただろう。水が地表が消えた時、人々は神の進行どころか、船や自動車の役目も忘れ、それを記憶していたものこそ一種の狂人であり、その人物はノマドになるしかないのだった。2021/05/20
ふみふみ
16
地球規模の旱魃化が進む中、人々は水を求めて海を目指すが、世界はマッドマックス的サバイバルワールドと化していく。景観の変質っぷりと主人公の思弁を重ね合わせる記述やエキセントリックな登場人物など特徴的な部分はあるけれど、筋立もきちんとしており、発表当時はともかく今の感覚だとかなりオーソドックスな人類終末ものに感じるんじゃないかなあ。同著者の「クラッシュ」は観念的で硬い文体、意味不明のメタファー、内容のグダグダさに辟易しましたが本作は普通に読めますねw。2022/07/09
スターライト
14
この本が出るまで、『燃える世界』を改稿したヴァージョンがあることを知らなかった。いわゆる〈破滅三部作〉と言われる作品の一つで、世界はひどい旱魃に見舞われ、主人公のランサムが住むハミルトンでも水不足が深刻化する。人々が水を求めて内陸から海岸に向かうが、そこでは人々の欲望むき出しの景観(ランドスケープ)が展開されるのだった…。ただ生き延びるための行動が人々の意識や社会の在り方を変えて行き、人間の内面を露わにしていく描写は容赦ない。降り出した雨にも気づかないほど消耗したランサムの姿が痛々しい。2021/07/24




