内容説明
空を飛ぶ夢にとりつかれたおれは、ある日空港からセスナを盗んで飛びたった。だがセスナは郊外の閑静な町シェパトンに火だるまとなって墜落する。住民たちの救助で一命をとりとめるが、なぜかこの町から脱出できずに過ごすうち、身のまわりには奇妙な出来事が起こり始め…。やがて町は熱帯のジャングルと鳥たちの楽園へと変貌してゆくのだった。鬼才バラードの到達点を示す傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
unknown
8
ドギツい。全編に横溢する妄執じみた想像力は読み手を選ぶが圧巻の一言。憑かれた危うい幻視者である主人公ブレイクが目の当たりにする光景はめまぐるしく、熱気とイカ臭さも立ち込めている。イメージに次ぐイメージは夢と現実を一緒くたに押し流す。その奔流にすぐさま呑まれるものの、ついていくので精一杯になることも多々ある。『クラッシュ』を読んだときも思ったが、性的にイカれ気味なところがある変態的主人公ってのはストーリーに異様なドライヴ感を与える上でやっぱりいいもんですなあ。2013/04/13
すけきよ
7
追悼。射精小説(笑)現代文明をレイプするという点ではかなり直接的。マジック・リアリズム風なんだけど、どことなく硬質で全然違うんだよね。オススメされたものの、イマイチはまれないな~、と思っていたら、ラストのビジョンは強烈。向こう側に突き抜けるんだけど、熾烈と当時に緩やか、熱く冷たく、極彩色でありながら、同時にモノトーンなイメージ。『幼年期の終わり』とか『ウォッチメン』と並べて語りたくなる。特に、全能とぶらり(笑)で、ブレイク=Dr.マンハッタンに見えちゃうなぁ。そういやみんなイギリス人ね。2009/04/24
roughfractus02
6
全世界の情報を伝える物語(創生神話や終末論)は、最上層の主人公を厩で下層の女性から誕生させ、世界の全階層を縦断させてあらゆる情報をその行動から伝える。また、世界の外の情報を伝える時は、主人公の死と復活のエピソードを加える。本書のブレイクなるロマン派詩人めいた名の主人公は、盗んだ飛行機が墜落して助かると神的能力を獲得し、人々に治癒と救済を施していく。物語も3人の子供/東方の3博士、風土水の3界を表す動物、天地創造の7日目の安息等、聖書ベースの物語の現代版のようだ。が、表題を見直すとそのパロディに見えてくる。2020/11/03
gu
6
妄想とか強迫観念とか言うような人間の内側にある訳のわからないものと外側の風景との一致、或いは相互関係といったものをバラードに見てきたが、この作品はそこから更に踏み出している。主人公から流出した夢想が現実を一方的に変容させ、そこで種別を越えた交わりが繰り広げられる。内側のなんだかわからないものが持っているあらゆる意味での「やりたい」を実現させようとしている。そういうものがあると示すに留まらずやり切ろうとしているのが他の作品との大きな違い。2014/03/06
Ai
4
性的衝動と妄想が一体になって、現実を変容させる。精液をまき散らして、熱帯雨林が誕生する様は、新しい創造神話を見たようだった。2017/05/25