感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
374
表題作を含む9つの作品からなる短篇集。いずれもSFではあるのだが、通常イメージされるそれとはやや趣きを異にする。インナー・スペースと評される由縁である。ことに巻頭の「ゲームの終わり」などは、もはやSFというよりはカフカ的文学の世界の範疇に入れる方が収まりがいいくらいである。篇中で最もSFらしいのは「時間の墓標」か。物語の舞台だけではなく、我々は文字通り時間軸を超越した空間を前にする。また巻末の「終着の浜辺」が描く荒涼とした寂寥の終末世界もバラードならではか。また、心理の深層に遡行するのが「甦る海」⇒2022/03/03
藤月はな(灯れ松明の火)
29
「ゲームの終わり」はカフカの『審判(判決)』のように不条理でありながら現実の一端を描写していると思う。一度でも疚しさや罪悪感に気付いた時点で私達は無垢ではなく、罪人になるのだから。「識閾下の人間像」は大量消費・生産に支えられた資本主義の悍ましい一面を抉り出した傑作。そういえば私も扇風機は大学時代のものはすぐに壊れたのに40年ほど前のものは夜寝る時にお世話になっているっけ・・・。「ゴダード氏最後の世界」の創造主から入れ子細工の世界へのミクロとマクロが巡る描写、「甦る海」の細やかなロマンスからなった奇跡も良し2016/09/23
スターライト
8
「ゲームの終わり」「識閾下の人間像」「ゴダード氏最後の世界」「時間の墓標」「甦る海」「ヴィーナスの狩人」「マイナス 1」「ある日の午後、突然に」「終着の浜辺」の9短篇所収。ある環境の下に置かれた人間の意識とその行動を描いた作品が多く、いかにもバラードらしいといえるかな。「識閾下の人間像」は商業主義の行く末が人間の行動を変えていくさまを描写しているが、今ではちょっと古めかしい。「ヴィーナスの狩人」はUFOをバラードなりに処理した作品。「ある日の午後、突然に」の次々と視点が変わるめまぐるしさに幻惑された 2011/07/03
takeakisky
2
読み終えてから、前に読んだな、と思った。どれも条理から外れ、陰鬱なバッドエンドが用意された9篇。ページ数の割にずっしり疲労する。主人公は全て男性。内面が描かれるのもほぼ男性のみ。肌にしっくりこない逆説的な心地よさがある。あまり掘り下げすぎずに、重たい気持ちを楽しめばいいかな。2022/05/02
ooto
2
数年ぶりに再読。昔より面白く読めた気がする。吐き気がするほどグロテスクな管理社会モノ「識閾下の人間像」や幻想文学に接近している風の「甦る海」も面白いけど、やはり「終着の浜辺」の難解な隠喩とイメージの鮮烈さが最高です。2015/08/29