感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
66
始まりの「九九階の男」の悪意に顔が歪むしかない一方で、終わりの表題作のコミカルさに戸惑う短篇集。まだ、短篇は読破してないけど、図書館所蔵のバラード短編集はこれで終わり!「アルファ・ケンタウリ」、「監視塔」はThe SFな作品ですね。「地球帰還への問題」はSFに文化人類学を絡めているのも良い。「逃がしどめ」は永遠に繰り返す同じ時に対し、夫婦が違和感を感じる時は異なるという所に「夫婦」という結びつきは他人同士でしかなく、同じ感覚を理解しようとしない限り、共有できないという点では非常に示唆的な内容だと思います。2016/10/27
催涙雨
57
バラードを読むときに感じる重々しさのようなものを含む短編はもちろんあるのだが、それを加味しても読みやすくて面白いものが多く、短編集全体のイメージとしてもそれほど陰鬱な感じはしない。これは今までに読んだ二冊の短編集とも共通する。不思議なことにバラードは短編だとほんの少しだけ印象が明るくなる。その傾向はユニークな一発ネタ的側面の強い「12インチLP」「逃がしどめ」「永遠へのパスポート」あたりに顕著だろう。もちろんジョークのベクトルはいつもブラックなのだが。人間の深奥をえぐり取ってくるような面白味は彼の持ち味だ2020/06/16
スターライト
5
「九十九階の男」「アルファ・ケンタウリへの十三人」「12インチLP」「監視塔」「地球帰還の問題」「逃がしどめ」「ステラヴィスタの千の夢」「砂の檻」「永遠へのパスポート」の9篇収録。いかにもバラードらしい短篇もさすがだが、一見、ありふれたSF的アイデアをバラードなりに処理した作品の方が印象に残る。「アルファ・ケンタウリ」などはいかにも世代型宇宙船を扱っているようだが、ドクター・フランシスを狂言回しに使った手際は鮮やか。「地球帰還の問題」もなかなか好み。「逃がしどめ」も、ちぐはぐさが夫婦関係を象徴しているよう2011/07/21
ふじい
3
バラエティに富んだバラードのショールーム。 ニューウェーブで且つSF寄り。 まさにコンデンスノベル。2021/07/18
gu
3
トラヴィスという名のモヒカン刈りの男が出てきて、バラードの作品は宇宙飛行士版『タクシードライバー』?なんてことも思った。落ちやプロットよりも登場人物の精神に影響を与える外的環境や小道具を描くのがバラードという先入観を持っていたので少しばかり困惑した。特に『九十九階の男』『12インチLP』『永遠へのパスポート』。とはいえ『地球帰還の問題』『砂の檻』等、後の作品に繋がる要素も見られた。それは、何処へ行こうが出来事が起こる場所は登場人物自身ということではないかと思う。『ステラヴィスタの千の夢』に出てきた、住人の2013/10/22