内容説明
フランスの田舎道でパンクのため立ち往生したバスは、ドイツ軍の編隊の機銃掃射を受けて動けなくなった。これから先は歩いてもらわにゃあ―。老イギリス人は、やむなくむずかる子供たちの手を引いた。故国を目差して…!戦火広がるフランスを、機知と人間の善意を頼りに、徒手空拳の身でひたすらイギリス目差して進む老人と子供たち。英国冒険小説界の雄が贈る感動の一編。
著者等紹介
池央耿[イケヒロアキ]
1940年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。英米文学翻訳家
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
474
ネヴィル・シュートの回顧歴史小説。『アリスのような町』よりも、一層ダイレクトに第二次大戦中の出来事を描く。もちろん、フィクションだろうが、こういう形をとることで、戦争の持つ側面を浮かび上がらせる手法は、なかなかに巧みだ。また、イギリス作家に独特の温かみも、小説に余裕と膨らみとを与えている。隠居老人のハワードが様々な経緯から、ジュラ山中のシドートンからイギリスまで、7人の子どもたちを伴って逃避する物語だが、そのわずか2週間の間に、プロットを越える人生の感慨が語られる。良書であると思う。2018/12/04
ケイ
149
戦火が刻々と迫っている中、戦争に巻き込まれる様々な国の人々の心情も真っ直ぐに描いている。老人がなぜ手を引く子供達を次々と受け入れていったのか、彼の心の動きを考えた時、ニコルが自分の恋物語を語る時、心に受ける深い傷と立ち向かう人の心の決意を考えた。涙なしには読めないが、それは悲しいからとか、感動したからとは違って、もっと深い人の善意と決意に触れたからだと思う。甘さだけでなく過酷さをもきちんと伝えてくれるから、受け取るものが大きかった。書かれたのは第二次大戦の前半。彼らのその後は祈るしかないのだ。2016/08/19
しいたけ
126
フランスに出かけていたイギリス人老人、ハワード。戦局の悪化から帰国することになるが、無事辿り着ける保証のない混乱し危険極まりない道中。そこに何故か子どもが次々と託されていく。読んでいるこちらが呆然となるが、ハワードは生きることの意義、責任を、弱った足腰でしっかりと抱えボロボロのまま突き進んでいく。まさにヒーロー。途中から同行するお嬢さん、ニコルにも泣かされる。二人が守り抜いた小さな命たちは、いつの日か世の灯りとなる。駅の階段で息切れしても、恥じることはない。命の尽きるその日まで、私たちは使命を持っている。2018/11/22
アン
115
第二次大戦下、イギリス人の老紳士ハワードは息子を亡くしフランスの片田舎へ。しかしダンケルク撤退を知り帰国を決めた彼は、知人から幼い子供を一緒に連れて帰るよう頼まれ引き受けることに。彼は70歳という老齢であり、無邪気で好奇心旺盛な子供を連れ、どのようにドイツ占領下の戦火を逃れながら故国へ戻るのでしょうか…。忍耐を心がけ予期せぬ重荷に思案を巡らせ、善意を頼りに努力を尽くすハワード。命の尊さを知り、子供たちの羽ばたく未来を信じる強さを持ち、困難が立ちはだかっても前進したハワードとニコルの想いに心を打たれます。 2020/12/06
はる
101
面白かった!息子を戦争で亡くした老人ハワードは、託された子供たちを連れてドイツ軍が占領するフランスから故国イギリスへと決死の旅に出ます。ハラハラドキドキの展開の中で描かれる様々な人間ドラマ。偶然出逢った息子の婚約者とのやり取りも切なく感動的。老人の子供に向ける優しさが素晴らしい。おすすめです。2017/03/30