内容説明
教会の不快な夜警の登場を皮切りに、不思議な夢や怪異に悩む画家を襲う強烈な恐怖を描く「黄の印」ほか、恐怖と災厄をもたらす戯曲『黄衣の王』にまつわる短編四篇に加え、かつて暗殺教団の神殿で巫女として霊能力を高めたアメリカ人女性が、世界の破滅を目論む八人の妖術師と魔術戦を繰り広げる長編「魂を屠る者」を収録する。不世出の異才の秀作を選り抜いた国内初の傑作集。
著者等紹介
大瀧啓裕[オオタキケイスケ]
1952年、大阪市生まれ。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
57
「読んだ者は必ず、発狂する」と言われている戯曲『黄衣の王』に纏わる、身の毛もよだつような怪異を描いた短編4編。結局は『ドグラ・マグラ』のようなもので意味が分からなくても狂うことはない。『魂を屠る者』はアメリカを手始めに全世界を霊的に支配しようとするモンゴルの暗殺教団との戦いを描いた作品。こちらの方は巫女であったトレッサの過去といい、最初は精神的世界のことを馬鹿にしていた男性陣がトレッサの仲間である女性(揃って美女ばかり)の霊的接触を経て信じるご都合主義は多分、今でいう「セカイ系」の典型なんだろうな。2014/11/15
拓也 ◆mOrYeBoQbw
31
幻想恐怖短篇集。マッケン『パンの大神』ビアース『カルコサの住人』と並ぶ、”ラヴクラフト以前”のクトゥルフ神話のモチーフとなった作品群です。架空の戯曲や書物をモチーフに事件や惨劇が起こる作品の原点の一つとも言えますね。幻想小説としても当時のアメリカの雰囲気を取り込み、ビアースの以来の”アメリカ化した恐怖小説”の系譜が、上手くラヴクラフトまで繋がってるのが良くわかる一冊になってると思います(・ω・)ノシ2017/11/20
meg
22
なんかSF小説っぽい。でも楽しく読めた。エンターテイメント!prime readingにて読む。2024/09/25
kthyk
17
「黄衣の王」と「黄の印」が支配するクトゥルフ神話は20世紀初頭のアメリカ・パルプマガジンが共有する宇宙。その支配者は太古の地球を支配していたが、今は異形の存在。書籍の中の黄衣の王は現代に甦り、ある種の近代の表現主義に反抗するオルタナティブ(恐怖)を生み出し、物語を支配する。舞台はワシントン広場周辺とパリの高級住宅街やブローニュの森。黄衣の王が立ち現れる人間世界は死の恐怖の記号に翻弄される。救いは鉄道馬車が走り、散歩に興じるニューヨークやパリの都市風景。艦船のノース川とレンヌ通りの教会からはオルガンが響く。2023/03/28
あたびー
14
#日本怪奇幻想読者クラブ 読む者を狂気に追いやる魔の書「黄衣の王」。その本を巡る4つの短編と、長編冒険怪奇小説「魂を屠る者」が収められている。画家でもあったチェインバーズの文章には常に構図、色彩、光が効果的に使われていて、そのことは桜鈴堂版「使者」でも感じた。解説によれば原書「黄衣の王」においては本書に入っている4編以外は怪奇幻想とは無縁の物語らしく、そのため傾向を同じくする「魂を屠る者」と合本したらしい。(つづく)2019/06/04