内容説明
兄が死んだのは、ぼくが十三のときだった。線路を渡ろうとして転び、第三軌条に触れて感電死したのだ。いや、それは嘘、ほんとはぼくが…。ぼくは今、ウィーンで作家活動をしている。映画狂のすてきな夫婦とも知り合い、毎日が楽しくてしかたない。兄のことも遠い昔の話になった。それなのに―キャロルの作品中、最も恐ろしい結末。決して誰にも、結末を明かさないで下さい。
著者等紹介
浅羽莢子[アサバサヤコ]
東京大学文学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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新地学@児童書病発動中
128
ダークファンタジーと呼ばれる分野を作り出した作家ジョナサン・キャロルの2作目。怖い、怖い、小説。怖いのだが、異様な迫力があって読むのをやめられなかった。子供の時に重い罪を犯してしまった作家が、親友の男性を裏切って、彼の妻と不倫関係になってしまったことから、地獄めぐりが始める。現実の壁を突き破って、血の凍るような虚構がこの世界が侵入してくる場面にぞくぞくした。怪物に追いかけられる悪夢を見て目を覚ましたら、枕元にまた怪物が立っていたような結末だと思う。2016/05/02
hit4papa
65
名作『死者の書』につづく第二長編です。ダークファンタジーの要素がなくても、小説としてなかなかよくできた作品です。登場人物の個性がきっちりと描かれていて、作品世界に入り込みやすいのです(翻訳が素晴らしい)。フツーの小説として読み進めていくと、突然、日常が不協和音を奏ではじめます。いきなり異世界に突き落とされるような感覚が、ジョナサン・キャロルらしさなのでしょう。あとがきの「結末は決して誰にも明かさないでください」という大仰なものではないと思うけれど、現実そのものが崩壊してしまうような薄気味悪さはありますね。2019/12/06
HANA
63
十三歳で兄を失った主人公。ただその死は実は…。時を経て作家になった主人公はある夫婦と知り合うが。というストーリーで中途までは優柔不断な「僕」と夫婦の関係が中心で、今回はサイコホラーな感じかなと読み進めていたら…。ある出来事が起きた途端、そのイメージは一変する。そして主人公の優柔不断に増々磨きがかかり、この辺の嫌悪感を抱かせるの上手いなあ。ただラストは本の粗筋に「決して誰にも、結末を明かさないで下さい」を真に受けてハードル上げすぎたかな。何がどうなっているのか、いまいち説明不足でよくわからなかった。2024/10/21
星落秋風五丈原
23
兄が死んだのは、ぼくが13のときだった。線路を渡ろうとして転び、第3軌条に触れて感電死したのだ。いや、それは嘘だ。ほんとは……。ぼくは今、ウィーンで作家活動をしている。映画狂のすてきな夫婦とも知り合い、毎日が楽しくて仕方ない。それなのに――。底知れぬ恐怖の結末が、あなたを待つ。鬼才キャロルの長編第2作!「我らが影の声」は多くのことを意味している。読者にとっては、それは本の題名そのものだし、登場人物にとっては、それは語り手が書いた短編小説を脚色した芝居の題目である。2011/02/03
さるる
17
【ファンタジー・フェス★】主人公はどこで寝た子を起こしてしまったのか。蓋をしたはずのものにいいとこだけ引っ張り出して利用した時期かそれともロスの親友に出会った時不用意に触れ合った時か。ウィーンでの充実した暮らしぶりや友達との交流シーンは読んでいて楽しいが時々ふと感じる違和感。それは主人公に対する小さな不信感。きっと今後は人との交流のない閉じられた世界で偽りの安心と幸福を手に入れて生きていくのだろう。2015/10/27