内容説明
ジル・ド・レー元帥、十五世紀フランスに生きた悪魔主義の帝王。その城内で弄ばれ虐殺された小児の数は、八百を下らないという。死体美の品評会、屍骸を詰めた大樽の数々…四百年後のいま、作家デュルタルは彼の一代記を執筆しようとしていた。やがて作家の前に蘇る背徳の儀式、黒ミサとは!?世紀末フランス耽美派の鬼才が贈るオカルティズム小説、戦慄に満ちた稀代の傑作。
著者等紹介
田辺貞之助[タナベテイノスケ]
1905年東京に生まる。1926年東京大学仏文科卒業
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mejiro
15
ジル・ド・レに興味があり読んだ。語り手は作家で、ジルについて本を書いている。百年戦争で活躍した騎士→悪魔崇拝、おぞましい殺人→懺悔、回心、と極端な人生を送ったのはなぜか。ジルはジャンヌが起こした奇跡を目の当たりにし、神秘主義に傾倒した。聖人になるのは難しいので悪魔崇拝を選んだ、という説が興味深い。作家と友人たちは様々なテーマで議論を交わす。一方、作家の日常に奇妙な影が…。オカルティズムから社会批判まで、なんとも濃い内容だった。2017/02/13
またの名
11
ウエメセで当世の文学界は下らん状況になってるし歴史物を手がけようと決めた作家は、悪名高い殺人鬼の伝記執筆のためなおも続く黒ミサに首を突っ込む。邪気眼めいた黒魔法使いや白魔法を心得た聖職者が登場するも、物語はエゴイスト同士の道ならぬ情事と作家を取り巻く藪医者、敬虔な鐘フェチ、占星学者の間で交わされる形而上学から猥談まで広がるとりとめのない会話が中心。一方では近代化が進展してるのに他方では呪術が横行し憑物症例にシャルコーが手を焼く様が揶揄される世紀末には、まだそれらの病理を解明する知がいなかった。フロイトが。2017/07/13
ラウリスタ~
9
創元推理文庫の英断。なんでこれをここから出版できたのか。明らかにこの文庫の読者層とは被らないだろ。ユイスマンスが神秘主義への傾倒を強めていく転換点的な重要な作品。かなり恐ろしい小説であることを心配していたのだが、ほとんどの資料を割愛してあるだけあり、なんとか小説としての体を成している。この後、資料性が全面に出た作品が増えることを鑑みると、まさに過渡期であることを思わせる。田辺貞之助氏の解説が秀逸極まる。ユイスマンス翻訳の第一人者であるだけあり、かなり主観入った素晴らしい解説。2012/07/26
qoop
7
悪魔崇拝を通して事実を多層に解釈する可能性を説く。同時代に固定された価値観からは生まれない世界像で、ひりつくような厭世観に包まれた一冊。著者にとって、出来事と意味とが一対一対応する自然主義(の浅薄さ)からの脱却がいかに必然かよく分かる。森を彷徨うジル・ド・レーが樹々の姿に人間を重ねる場面は圧巻。自然主義を通過した幻視文学の凄みとでもいおうか…2016/11/30
rinakko
6
“この男は、さっきもいったとおり、ほんとうの神秘主義者なんだ。しかも、歴史上に類例のない異常な出来事を目撃したのだ。それで、ジャンヌ・ダルクとの頻繁な交渉が、神への情熱を尖鋭化したにちがいない。ところが、熱狂的な神秘思想と過激な悪魔礼讃とのへだたりは、わずかに紙ひとえだ。(略)彼は熱狂的な祈禱の態度をその逆の領土に移したまでだ。” “ともかく、研究する興味のあるのは、聖者と極悪人と狂人だけだ。”2019/09/13