出版社内容情報
東の海、唐と倭国の間に浮かぶ麗しき小国〈蕃東〉――知識や儀礼を司る貴族の家に生まれ、気ままに日々を過ごす青年・宇内と彼の従者を務める17歳の藍佐。彼らが出会った驚異、あるいは目にすることのなかった神秘を、怪奇幻想の第一人者である翻訳者にしてアンソロジストが鮮やかに描く。繊細な細工物のような五編を収めた空想世界の御伽草子。
西崎憲[ニシザキケン]
著・文・その他
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
紅はこべ
102
翻訳家アンソロジストのイメージの西崎さん、小説家でもあったのか。解説の米澤穂信さん、日本の古典にも造詣が深い。有明中将、当然キャラとしては、在原業平や光源氏が連想されるが、外見が美しいだけで愚かで平凡なのは未来のイヴっぽい。そうした相手に心奪われた者達の悲劇。「気獣と宝玉」の三玉は河惣益巳の『火輪』の三真珠を連想。今昔や竹取など、日本の古典を読み込んでいる。勿論中国古典も。西崎さん、西洋が専門かと思っていた。藍佐が好き。2020/03/28
優希
49
面白かったです。繊細で幻想的な世界が美しいと思いました。2022/10/08
よっち
29
唐と倭国の間に浮かぶ麗しき小国・蕃東。その知識や儀礼を司る貴族の家に生まれた青年・宇内と彼の従者・藍佐が出会った驚異や神秘を描く空想世界の御伽草子。中華と和風が入り混じったような世界観のどこかの怪異や不思議な話をまとめたような連作短編の構成で、雨竜を見物する話や舟に乗り合わせた4人を幻惑するあやかし、酒を酌み交わしながら不思議な物語を披露する話、美しい中将を愛した二人の物語など、淡々と綴られていくその雰囲気が良かったですね。個人的には一番最後の成り行きで求婚し幻の珠を探しに行く話の切ない結末が好きでした。2018/05/01
緋莢
23
唐と倭国の間の海にある小国「蕃東」の国の物語。宮廷の知識や儀礼を司る貴族の家に生まれた青年・宇内と、その従者を勤める藍佐が主人公でしょうか。2人が出てこない話もあります。水底で卵から孵り、力を蓄えた後、天に昇っていく 竜を見物に行った際に起こった騒動や国を造る時に使われた宝玉を手に入れる冒険に出た話などが収録されています。独特の雰囲気が漂い、あらすじの<繊細な細工物のような五篇>という言葉がピッタリとあてはまりました。類い稀な美しさを持った有明中将、その有明中将を特に愛した2人を書いた話が特に好きです。2018/09/01
有理数
22
架空の島国・蕃東を舞台とする短編集。しかし何より、この蕃東が実在したかのような書きぶりが見事で、各話の間に挿入されるエピソードが秀逸。蕃東とフランスの共同制作映画のインタビュー、蕃東の音楽・民俗学など、もっともらしい挿話はフィクションの解像度を底上げする。短編そのものも面白いものが並ぶが、ベストは「有明中将」「気獣と宝玉」か。実在する昔話・逸話・古典のハイブリッドに近いが、蕃東ならではの展開が紡がれ、風格は年月を積み重ねたそれに近い。『後宮小説』『十二国記』などの愛読者はぜひ。米澤穂信の解説も素晴らしい。2021/04/04




