出版社内容情報
大下 宇陀児[オオシタウダル]
著・文・その他
内容説明
日本探偵小説草創期に江戸川乱歩や甲賀三郎と並び称された巨匠の短篇の精髄を全二巻に集成した文庫傑作選。本巻では、兄妹による往復書簡の形式で構成された表題作をはじめ、ある家庭の悲劇を子供の視点から描き苦いユーモアを残す「毒」、冬の港湾都市を舞台に続発する魔術的犯罪が意外な顛末を辿り幻想小説としても世評の高い「魔法街」など、戦前に発表された全九篇を収める。
著者等紹介
大下宇陀児[オオシタウダル]
1896年長野県生まれ。九州帝国大学卒。1925年に第一作「金口の巻煙草」を“新青年”に発表、29年“週刊朝日”連載の『蛭川博士』で人気作家となる。独自のロマンチック・リアリズムのもと犯罪心理や風俗描写に優れた探偵小説界の巨匠として、江戸川乱歩、甲賀三郎とならんで戦前の日本探偵小説の三大家に数えられる。51年『石の下の記録』が第4回探偵作家クラブ賞を受賞、翌年から54年まで探偵作家クラブ会長を務める。66年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
W-G
270
創元の全集が面白かった記憶があったので読んでみた。探偵小説というよりは、犯罪小説と呼んだ方が適切に思える作品が多い。個々の作品はさすがに傑作選だけあってなかなかのもの。しかし、書簡や日記の形をとった、似たようなフォーマットの作品が続き、その統一感こそが狙いなのかもしれないが、私はややマンネリを覚えてしまった。とはいえ、それは編纂の問題。『毒』『死の投影』『紅座の庖厨』『灰人』あたりがお気に入り。反対に、割りと長めの『魔法街』はピンとこなかった。SFにもなりきれない中途半端な一品に思えてしまった。2022/11/28
パトラッシュ
116
大下宇陀児の名は日本ミステリ史で「変格派」の代表作家とされている以上は知らなかったが、改めて読むと心の闇や歪みのため犯罪に走る人の弱さ愚かさを巧みに描いている。表題作や「金色の獏」ではプライド故に罪や損害を着せられた姿が哀れだし、「情獄」と「決闘介添人」には現代と変わらない女への欲望から殺人を犯す男が登場する。幼少年心理の残酷さが鋭く切り取られた「毒」や「死の倒影」を書く一方で奇妙な味と称すべき「紅座の庖厨」や「魔法街」もあるなど、作風の多彩さは一言でくくれない。古さを感じさせない再評価されるべき作家だ。2022/12/08
くさてる
24
日本探偵小説草創期の作家、とあって、古臭い探偵小説かなあと思ったのだけど、思いのほかモダンで読みやすく、とても楽しめました。現代の目から見たら時代を感じる内容のものもあるけれど、それがマイナスになっていない。印象に残ったのは往復書簡の形式で構成された内容がとにかく巧かった表題作と、若い妻をもって老人の煩悶と飼い犬の愛らしさが不思議な迫力を醸し出す「灰人」です。2023/02/28
Kotaro Nagai
15
昭和4年~10年の短編9編とエッセー2編を含む短編集。表題作(昭和11年)は兄と妹の往復書簡から殺人の真相を暴いていく作品で斬新。「金色の獏」(昭和4年)はよくある詐欺の手口だがユーモアある語り口で楽しめる。「死の倒影」(昭和4年)「情獄」(昭和5年)は犯罪を犯す人物の心理を描くクライムミステリー。昭和4年といえば1929年。当時としては新しいのでは。「魔法街」(昭和7年)はある街での大掛かりな怪異現象と殺人事件を扱い面白く読めた。「灰人」(昭和8年)は本格的なミステリーとして力作。2024/12/03
練りようかん
14
九短編プラスエッセイ。底本は昭和初期、心理の推移とどう考えてもブラックな出口は時代の相乗効果があり、妖しさと人間の醜さがシニカルに描かれていると思った。特に面白かったのは表題作と「薬」。犯罪の進行を感じさせる断片的な情報にぞわぞわして、前者は往復書簡の相手・兄、後者は子供の目を通して両者の真っ直ぐさが歪みを正すのか先が気になり楽しんだ。移植手術を扱った「紅座の疱厨」もユニークで、本タイトルの患者に引っ張られてか医療にまつわる短編が好みだったのが不思議なつながりを感じた。2025/03/18