内容説明
憑かれたように描き続け、やがて自殺を遂げた画家・東条寺桂。彼が遺した二枚の絵、“殉教”“車輪”に込められた主題とは何だったのか?彼に興味を持って調べ始めた学芸員・矢部直樹の前に現れたのは、二十年前の聖夜に起きた不可解な二重密室殺人の謎だった―緻密な構成に加え、図像学と本格ミステリを結びつけるという新鮮な着想が話題を呼んだ、第九回鮎川哲也賞受賞作。
著者等紹介
飛鳥部勝則[アスカベカツノリ]
1964年、新潟県生まれ。新潟大学大学院教育学研究科卒業。98年、『殉教カテリナ車輪』で第九回鮎川哲也賞を受賞
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乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
380
★★★★☆ 図像学とミステリの融合!ミステリマニアの学芸員は「図像学とミステリは似ている」と言う。 20年前に起こったカーばりの二重密室殺人。その関係者でアマチュア画家である東条寺桂の自殺。東条寺の遺作から心理を読み取るという作業と密室殺人の謎解きとが重なって超面白い! しかし、アンフェアとは言わないが、あまりスカッとしないトリックは少し残念。また偶然が過ぎるという思いも拭えず、解決編は尻すぼみだったように感じた。一方絵画から作者の心理を読み取る作業は、難解だが解説を聞いているだけで楽しめた。2024/01/16
W-G
277
探偵役不在のミステリ。昔は"感情移入の拠点となる人物が存在しないミステリ"があまり好みではなく、この作品もまずまず程度だったが、今回は非常に楽しめた。氏独特の余韻はデビュー作から健在。外界との間に薄い膜を張っているような、抑制された人物描写。そして彼や彼女らが物語の最後にあげる切実な叫びの声…みたいな表現が上手で、好みでもある。密室物のミステリとしての側面だけを見てはいけない。改めて振り返ると、結構なとんでもトリックを多投している作家でもある。このトリックでこんなに綺麗な物語を創りあげた事が凄い。2016/10/15
buchipanda3
111
著者初読み。面白かった。特に絵の主題を読み解いていく図像解釈学のながれが面白すぎて、鼻の穴を広げながら夢中になって読んでいた。「殉教」と「車輪」という奇妙な二枚の絵、それも背徳的で意味ありげな絵を実際に観ながら、それらを元に事件のカギを握る人物たちの秘めた関係、さらには内包した心情を浮かび上がらせていく趣向が斬新。事件の詳細が語られる前にそれらが強くイメージされていたため、不可解な連続密室事件の真相が露わになった時、驚きよりも絵に込められた思いとのシンクロによる哀切が感じられた。著者の他作品も読みたい。2020/03/20
aquamarine
74
表紙をめくったところにあるカラー絵に目が釘づけになり、いろいろなことを隅々まで見ながら想像しました。文字を一文字も読まないうちに取り込まれてまった感じです。「黒と愛」「堕天使拷問刑」を読んできたので一筋縄ではいかないストーリーだろうとは想像していましたが、図像解釈学とは!とはいえ説明がとても分かりやすく絵の解釈の過程はとても面白かったです。絵画の世界にどっぷり浸かっていたら後半はガッツリ本格ミステリ。この融合もとても好きでした。鮮やかに過去の二重密室殺人を解いた後、切ない余韻まで十分堪能しました。2016/09/08
ももっち
67
絵画に込められた想いを読み解く図像解釈学とミステリーの融合。飛鳥部さんの鮎川哲也賞受賞デビュー作はエグミのない本格的な味わいだった。中野京子さんの「怖い絵」に一時ハマったが、それを思い出す。地方の美術館の老学芸員が掻き立てられた早逝の画家の作品と人生への興味。二重密室殺人の謎と絵画の趣意、叙述トリックに違和感を嵌め込みつつ、綺麗に回収される伏線。不意打ちのような仕掛けの妙。そして、画家と少女の純愛。とても面白かった!ラストのセリフが切ない。少女に果たせかなかった約束こそ、画家が描ききれない悔いだったのか。2017/03/06