内容説明
自己破壊衝動に駆られる危うい精神状態の男の物語「落ちる」、万年平行員のささやかな逆襲「ある脅迫」、完全犯罪かと思われた事件の皮肉な露顕「笑う男」―第四十回直木賞を受けた三編のほか、囚われの身となった老人の視点でユーモラスに描く「私は死んでいる」や、青少年期の感傷をリリカルに謳う「みかん山」、「黒い木の葉」など、多彩な趣向に満ちた初期の秀作十編を収録。第四十回直木賞受賞作。
著者等紹介
多岐川恭[タキガワキョウ]
1920年1月7日福岡県生まれ。東京帝国大学経済学部卒業。別名白家太郎。58年に『濡れた心』で第4回江戸川乱歩賞を、59年には『落ちる』で第40回直木賞を受賞。推理小説のほか時代小説の書き手としても活躍。94年12月31日逝去
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感想・レビュー
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kaizen@名古屋de朝活読書会
123
直木賞】恐怖小説、推理小説、犯罪小説。短編集。「落ちる」昭和31年度宝石懸賞入選作。主人公と妻の佐久子と医者の長峰、「ある脅迫」昭和33年宝石発表、「笑う男」昭和33年宝石。「私は死んでいる」江戸川乱歩賞受賞後発表第一作ほか。主人公は暗いか、恐いか、冷静か。2014/08/22
遥かなる想い
105
第40回(昭和33年度下半期) 直木賞受賞。 自己破壊の衝動にかられる男の 壊れた内面を描く表題作を 含む推理短編集。この短編集、一貫して心が 壊れた人物が登場するのが ある意味面白い。また初期短編集であるためか、 昭和30年代の風景が多く、トリックはひどく素朴で逆に内面推理が多い。 現実から大きく解離した 思い込みから脱却できない人間を 推理小説の中でややシニカルに 描いているが、現代と共通する 部分は多い気がする。 犯罪の影に潜む女性の立ち振舞いが 慎み深く、古風なのは著者の好みの 反映なのだろうか。2013/10/27
ウメ
8
粒ぞろいの短編集。昭和のレトロな雰囲気がただよう。心を病んだ登場人物が多いせいか一筋縄ではいかない結末が多い。幾度となく背筋が寒くなる。やはり人は性悪説で成り立つのか。人間不信を増長させる。2017/04/18
マーシュランド
6
かなり古い作品だが、その古さを感じさせなかった▼直木賞受賞作品を3つ鑑賞する▼250132025/03/14
LIAN
6
多岐川恭初読。 昭和の小説家として名前は見知っていたが、作品を手に取ったのは初めて。 静かな語り口で、人の悪意・苦悩を描く秀逸な作品集。心理描写が細やかで、日常の事件がリアリティを誘う。旧さがまた良いスパイスとなり、何度も読み返したくなる。2010/09/06