内容説明
成城署の真名部警部は、偶然知り合った脳性マヒの少年の並外れた知性に瞠目するようになる。教えたばかりのオセロ・ゲームはたちまち連戦連敗の有様だ。そして、たまたま抱えている難事件の話をしたところ、岩井信一少年は車椅子に座ったまま、たちどころに真相を言い当てる…。数々のアイディアとトリックを駆使し、謎解きファンを堪能させずにはおかない連作推理短編の傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
とよキチ
80
初めての天藤真作品。《脳性マヒを患い車椅子生活を余儀なくされた少年・岩井信一が、成城署の真名部警部が持ち込む難事件を、明晰な頭脳を用いて解決する。アームチェア・ディテクティブものの連作短編集》◆当時馴染みのないバリアフリーを願う著者の人柄からか、どこなく温かみや和やかさのある雰囲気が漂っているが、内容は【アリバイ】【密室】等々、本格的な推理小説という印象。あと何作か読んで、『大誘拐』に着手してみたい。2013/02/12
文庫フリーク@灯れ松明の火
59
『仔羊の巣』文庫版・有栖川有栖さん解説に、積読本の山から発見。字は違えどひきこもり探偵・真一と同じ名の信一少年。氏の解説の言葉を借りると《重度の脳性麻痺のため全身の自由がほとんどきかず、話すこともままならない》少年探偵。読み始めこそ描写に痛々しさを感じた自分を、読後恥じる。34年前に雑誌『幻影城』に連載されたミステリーは時代や言葉の古さは有れど、真名部警部と信一探偵の掛け合いを中心に今なお、ほっこりと楽しめる。私自身は推理どころか、してやられた感を喜ぶ読み手なので第五話『完全なる不在』にやられました。2010/11/06
yamatoshiuruhashi
56
大誘拐を久しぶりに読む気になったときに一緒にKindleにDLしていたものをやっと読む。天藤真は40年ほど前に初めて読んだ大誘拐しか知らなかったのだがこれもご縁と思って読んだが、時代が違いすぎて金田一耕助を読む以上に状況に違和感がある。どうやら生活は殆ど「今」の感覚なのにインターネットや携帯が全く出てこず、今では自主規制対象の単語が普通に使われているからのようだ。障害児で話すのもやっとの信ちゃんと警部の交流は微笑ましい。どこか仁木悦子を連想させると思っていたら、仁木の「青じろい季節」という作品に→2021/12/16
セウテス
53
〔再読〕1976年に探偵小説専門誌「幻影城」に、5号にわたって掲載されたものをまとめた作品です。真名部警部が知り合いになった障害を持ち車椅子で生活する岩井信一少年。彼は身体は不自由ですが、警部が事件の概要を話すと、犯人を謎を見事に解き明かすのでした。有名なドラマの素であろう障害を持つも、天才的な探偵能力という先駆け作品です。どの作品も程好い謎に、伏線のはり方や解決に至る流れは安定した高さを感じます。ミステリーとして基本的な良作であり、障害を持つ人たちに暖かい目をむけて、むしろ応援している様な感じがします。2014/12/28
yumiha
49
50年ほど前に書かれたミステリーは、重度の脳性マヒの少年が謎を解く5つの短編集。「多すぎる証人」は、『安楽椅子の探偵たち』(赤木かん子編)で既読だったので、謎よりも少年を取り巻く社会の様子が描かれた箇所に目を向けた。「現…場が…見たい」と言う第3編第4編では、車椅子を載せられる車が当時はないので、警察が護送車やライトバンを改造する。そこまで工夫してくれる警察は、本書の中だけだろう。ミステリーとしては、過激派や暴力団はミスリードと予想し、トリックは一部推察できても、その全体は見破れなかった。2023/12/06