内容説明
一九七七年の春、元歴史教師のマーチンは、悪友からの誘いに乗ってポルトガル領マデイラへ気晴らしの旅に出た。思えば、それが岐れ目だった。到着早々、友人の後援者である実業家に招かれた彼は、半世紀以上前に謎めいた失脚を遂げた、ある青年政治家にまつわる奇妙な逸話を聞かされることになったのだから…!稀代の語り部が二重底、三重底の構成で贈る、騙りに満ちた物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
110
元歴史教師のマーチンは旅先での依頼により、20世紀初頭の英国政治家ストラフォードの失脚の謎を追っていく。全体の四分の一を占めるのはストラフォードによる回顧録で、第一次対戦前の内閣の駆け引きに婦人参政権運動家エリザベスとの多難な恋愛が絡み合い、これだけでも充実した読み物になっている。妖艶な歴史研究家にあっさり手玉に取られるマーチンの醜態ぶりはストラフォードらの純愛劇と好対照。現在と過去、史実と虚構を巧みに織り交ぜたプロットの精妙さに加えて、ミステリーと人間ドラマのバランス感覚も処女作とは思えないクオリティ。2018/03/06
遥かなる想い
76
物語りの底に潜む人間の悪意・偽りのようなものと、エリザベスに代表されるいさぎよさのようなものが、過去をたどりながら、見事に万華鏡のように 浮かび上がってくる作者の筆力には感服した。ロバート・ゴダードを語る時に、「天性のストーリーテラー」という表現がよく使われるが、二重・三重の物語りの変遷には、まさにその力量・センスを感じる。チャーチルやロイドと絡ませながら、一編の回顧録と生き残る人々の語らいから、過去の謎を・過去の真実を焙り出していくプロット自体が素晴らしい。2010/06/06
yumiha
40
「読みごたえがある」という誌友さんレビューにつられて手に取った。サフラジェットについては、『女たちのテロル』(ブレイディみかこ)を読んだ記憶がいくらか蘇った。その女性参政権運動の敵対者としてロイド・ジョージの名前が上がっていたこと、結果として戦争が女性の社会進出を推し進め女性参政権が認められた、という内容だった。それを本書では、ロイド・ジョージとサフラジェット活動家の裏取引があったようだと匂わせている。それは単なるミスリードだろうと予想しているが、下巻で明かされる真実はいかに?2025/06/29
白玉あずき
19
処女作というのは、作者の後に続く作品の総ての要素が詰まっているらしい(どこで読んだか忘れました、すいません。)。ゴダードは三作目なのだが、なるほど犯罪がらみの歴史の真相究明、冤罪の悲劇と正義が果たされるカタルシスが待ち受けている気配がムンムン。さあ二重三重の構成の妙味を味わいつつ、悪を懲らしめてすっきりしよう。語り手の感情移入させてくれないふがいなさと欠点は置いといて、美質満載のエリザベスの息子があんなチンピラなんて、そこがまず変。それと依頼主セリックが怪しすぎ。2016/05/05
アプネア
14
元歴史教師は、悪友からの誘いに乗じポルトガル領マデイラ島への旅に出る。そこで友人のパトロンから、半世紀以上前のある青年政治家に纏わる逸話を聞かされるのだが・・・。海外翻訳小説ってこんなに面白いのかと、門戸を広げてくれた作品です。内容はおぼろ気にあって、面白かったという記憶しかない。でも、なんでエリザベスは、エドウィンをスパッと介錯しないで、宙ぶらりんにするのか。結構ヤキモキさせる展開です。下巻へ。2023/02/12
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