内容説明
1949年、副総統ルドルフ・ヘスの飛来を契機に、ナチスと手を結ぶ道を選んだイギリス。和平へとこの国を導いた政治派閥「ファージング・セット」は、国家権力の中枢にあった。派閥の中心人物の邸宅でパーティーが催された翌朝、下院議員の変死体が発見される。捜査にのり出したスコットランドヤードのカーマイケル警部補だが―。傑作歴史改変エンターテインメント三部作、開幕。
著者等紹介
茂木健[モギタケシ]
1959年生まれ。翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kasim
40
1949年、前半はカントリーハウスを舞台に殺人事件の捜査が進む典型的英国ミステリのようだが、本作は歴史改変小説で主眼はこちら。英国はドイツと講和して欧州をいわば見捨てており、日米も開戦していない。戦争がない代わり、反共・反ユダヤは進み、強力なリーダーが必要という名目のもとに全体主義は着実に英米にも根付き始めている。ソフトに広がるファシズムの行きつく先は。オーウェルのエピグラフで分かるように、エンタメに見えてかなり骨太な怖い小説だ。2021/04/17
星落秋風五丈原
36
シリーズの特徴としては、語り手が必ず二人登場する。一人は事件の関係者である女性、もう一人は捜査する側の人間、カーマイケルだ。それぞれの側面から事件を描いていくには絶妙のバランスと言えよう。カーマイケルは、初登場時警部補だったが、三部作を通じて彼の立場も変わっていく。さしずめ彼と彼女のロマンスも?と想像しがちだがきっぱりと可能性はゼロ。その代わり彼には別の苦しみがある、と言えば察しはつくか。本作の主眼はミステリではなく、その謎によってイギリスという国がどうなってゆくかという点に据えられる。 2015/02/19
kana
32
陰謀渦巻くファーシング・セットの催すパーティーで起こった殺人事件。捜査にあたるカーマイケル警部補とファーシング・セットのご令嬢でユダヤ人デイヴィットと結婚したルーシーのパートが交互に書かれ、スリリングな展開に夢中になって読みました。…が、読後の心境は何とも複雑で暗い気持ち。これが帯でいう歴史改変エンターテイメントなのね。これから読む人には謎が解け、犯人が捕まって気分爽快な結末!というわけにはいかないことだけは忠告したい。ただ最後の最後まで本当に面白いのも確か。それにしてもマケドニア人とアテネ人が多い。笑2012/09/30
Small World
24
あ、この本は評価の難しいやつですね。SFかと思って読み始めたら正統派のミステリーのようで、でも、やっぱり面白いのは、丁寧に描かれている、もうひとつの世界だったりしました。事件の真相より世界が変転していく姿に驚いたし、ちょっと怖かったです。三部作ということで、月一ぐらいのペースで楽しみたいと思います。2020/04/07
ぱなま(さなぎ)
23
この著者は『わたしの本当の子どもたち』から知りましたが、歴史IFもののエンタテインメントを題材に、ユダヤ人や同性愛者そして女性といった差別されてきた人々の実生活と人生そのものが、いかに世界に振り回されてきたかということを語っています。マイノリティに限らずとも、わたしたちの人生は誰かの利害や思惑によっていとも簡単にめちゃくちゃにされてしまう。4分の1ペニーほどの価値しかない「ファージング」硬貨は、この第一部の幕切れでは無力な一個人の象徴として描かれますが、三部作の続編を読むのが楽しみでなりません。2018/10/13