出版社内容情報
サラ・ウォーターズ[サラウォーターズ]
著・文・その他
中村有希[ナカムラユキ]
翻訳
内容説明
スウが侍女として入ったのは、俗世間とは隔絶した辺鄙な地に建つ城館。そこに住むのは、スウが世話をする令嬢、モード。それに、彼女の伯父と使用人たち。訪ねてくる者と言えば、伯父の年老いた友人たちだけという屋敷で、同い年のスウとモードが親しくなっていくのは当然だった。たとえその背後で、冷酷な計画を進めていようとも。計画の行方は?二人を待ち受ける運命とは。
著者等紹介
中村有希[ナカムラユキ]
1968年生まれ。東京外国語大学卒業。英米文学翻訳家
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
462
下巻に入って早々に、二人の生誕にまつわる秘密には思い至る。ただ、それでも結末がどのように閉じられるのかは想像がつかなかった。本書の最大のサスペンスはそこにあっただろう。もっとも、結果的にはキー・コードがモードとスーザンにあったのだとすれば、なんとも残念な結果に終わったのだが。ただ、ここでも閉鎖病棟の叙述と、サクスビー夫人の処刑の場面は19世紀小説風の暗さと重々しさとを見せる。本書にミステリーの楽しみを求めるのならば不十分と言わざるを得ないが、一方で小説としての楽しみは十分にあったというところだろうか。2019/10/13
遥かなる想い
290
下巻に入っても、サラ・ウォーターズ の筆致は冴えわたる。 裏切りに次ぐ裏切りが、 心に痛く、もつれた糸の 行き着く先は一体 どうなるのか…読んでいて ため息がでる程の展開は 読書の喜びなのか… 最後は納得の終焉で、 さすがに『このミス』史上初 2年連続1位に輝いただけの ことはある、怒涛の物語 だった。2015/08/16
ケイ
148
これは母性の物語だ。そして、愛と友情と女性の自立の物語だ。本当に女に寄り添ってくれるのは、男ではなく女なのかもしれない。女に泣かさえれる女がどれだけいるだろう。女を泣かせるのはいつも男だ。この上なく幸せにさせるのも、それより長い時間不幸にさせるのも。そして滅私に徹した愛を与えられるのは、母性なのだとこの作品は言ってるように思う。2016/02/28
のっち♬
124
第二部におけるモードの伯父のアブノーマル極まる趣味も強烈だったが、第三部の精神病院の様子も実に臨場感があり、不潔で猥雑なむせ返るような臭気が立ち込めている。職員から精神面を徹底的に痛めつけられ、モードに対して愛憎入り乱れた情念を抱くスウの描写も充実。部によって雰囲気がガラッと変わる点も本作の面白さだろう。第三部はミステリーとしてよりも登場人物の様々な思惑が交錯するヒューマンドラマとしての要素が強めだが、サクスビー夫人のスウに対する扱いは釈然としない。著者の嗜好が前面に出たラストシーンも独特の余韻を残す。2018/04/07
まふ
120
下巻もなかなかの展開で十分に楽しんだ。モードはリヴァーズに連れられてたどり着いたロンドンの下町のサクスビー夫人の家の期待にそぐわないたたずまいに落胆し、一方発狂したとされて精神病院に放り込まれたスゥは病院の看護婦たちにリンチまがいのハラスメントを受ける…。最後はスゥが廃墟となった居城にモードを訪ねて…と、レズ世界への展開となるが、これは作者の世界でもあるので、仕方ない、というところか。本作品により、サラ・ウォーターズは「読ませる作家」であることを改めて確認した。G664/1000。2024/12/12