内容説明
頭の中で様々な状況を組み立てては、登場人物の心理に思いを馳せるのが作家シドニーの癖だった。空想の中で妻を殺すことさえ一再ならずあったが、当の妻が失踪したのを端緒に、周囲は彼に疑いの目を向け始める。それを助長するような挙動が災して、シドニーは徐々に追いつめられていくのだった…心理の葛藤を鮮やかな筆致で描く、女史の傑作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
めしいらず
55
夫婦喧嘩の末に失踪する妻と、彼女をまるで殺したかのように振る舞う夫。作家的興味から起こす夫の言動は、周囲の人々に根深い疑惑を植え付け、彼をいよいよ抜き差しならない事態に追い込んでいく。正義の旗印の下で暴走する人々、思わぬ方へと転がる事態に身動きとれない妻、八方塞がりの中でも理解できない行動を取り続ける夫への苛立ちに、終始振り回されるこの何たるスリル。後半は寝食を忘れるほどに面白かった。人は、自分を取り巻く疑惑の渦の中にあって、冷静さを保っていられるものだろうか。我が身に置き換え、思わず慄然としてしまった。2016/03/04
harass
39
数十年ぶりに再読。はまっていたこの作家の性格の悪さを再確認。実に素晴らしい。日常のこまごまとしたところから丹念に描いていくのは相変わらずで、伏線の張り方が実にうまく、途中からがんじがらめにされていくのを慄きながら読み続けるのだ。作家の主人公の妻は行方を知らせずに出て行ってしまうが、彼は、不仲だった彼女を殺したとしたらと、想像を膨らませて、周囲に誤解させる言動を繰り返す。実際に殺していないのだからと高をくくっていたのだが…… この作家にしか書けないし展開が予想できない小説だ。他の作品も読み返したい。2015/06/09
ペグ
29
ハイスミスの長編初読み。無駄の無い描写だが丁寧に心理が描かれているので読み手を納得させるが、なにしろ主人公の夫婦が傲慢で、全く共感出来ない。このイライラ感はハイスミスの企てに違いない。殺す手段など手帳に書き込むのは擬似殺人?最終的に事件は解決したわけでも無く、ここにハイスミスの巧みさを感じた。2016/02/01
eirianda
25
前半は倦怠する夫婦の会話と心理が描かれて、ありがちだけど地味な話、と思っていたが、後半から主人公の巻き込まれていく心理戦に読む手が止まらなくなった。65年の作品らしいが、古びない展開。無理のない心理描写に納得した。名作だと思う。2018/03/06
キノシマ
8
妻が行方不明ごっこを、夫が妻殺しの殺人犯ごっこをしていたら、世間がそれを現実の事件だと誤解していく話。面白いのは急展開がほとんどないところで、ちょっとずつ感情や状況が行き詰まって、おバカな状況が笑えなくなっていく。そういうこと自体が滑稽ではあるけど。悪人はいないし、悪意もほとんどないのに、抜き差しならないところへ辿りつくのは、ホントにぞっとした。素晴らしい人格者である隣人・リリバンクス夫人の賢明さが、事態を悪化させるっていう皮肉も好き。2013/09/12
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