内容説明
ある日、偶然に見つけた思い出の少女の写真。彼女は今どうしているのだろうか?そのちょっとした好奇心はいつしか憑かれたような思いに変わり、ダニーはわずかな手掛かりを追って彼女の足跡を辿り始める。この青年の物語と交互に語られていくのは、ある悪女の物語。二人の軌跡が交わるとき、どんな運命が待ち受けているのだろうか?サスペンスの魔術師の代表作がついに登場。
著者等紹介
矢口誠[ヤグチマコト]
1962年生まれ。慶応大学文学部卒。英米文学翻訳家
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
セウテス
91
ノンシリーズ第1作品目〔再読〕。本作の特徴は2つの物語を描きながら、最期に意外な所から交じり合い驚きの結末に至るという、カット・バックと呼ばれる手法だ。そして孤立無援孤独な主人公を、街や自然やあらゆる描写で見事に表現している驚きがある。物語はダニーが偶然手にした新聞記事から、10年前17歳だった美女を探し始める章。その女性クラッシーが、その頃どうやって生きていたか描かれる章と交互に語られる。彼女が成り上がる為に仕掛ける、幾つもの詐欺テクニックには女は怖いの一言しかない。サスペンスの魔術師、色んな意味で。2020/01/18
藤月はな(灯れ松明の火)
41
ヤクザな取り立て屋、ダニーは憧れの存在だったクラッシーの写真を見つけて彼女の行方を探す。クラッシーは男を騙して利用するだけ利用した後、邪魔になったら破滅させ、それを悪びれもしない女。しかし、「暴力や知識が圧倒的に有利な男を女が支配するには色仕掛けが効く」と経験上、知っているがセックスについては恐怖感を抱いていたり、知識をひけらかす相手に惹かれる姿は矛盾していながらも愛おしさすら感じるから不思議。「特別」になりたかった彼女は本当に幸せを手に入れたのだろうか?2014/11/08
hit4papa
34
男が偶然目にしたとある女の10年前の写真。その時から女は男にとって運命のひととなった。一目惚れした女の行方をひたすら捜す男と、その女の視点から彼女の歩んできた人生が交互に語られます。男はまるっきるストーカーですが、女の方は自身の欲望を叶えるために手段をえらばない毒婦です。名前を変え、前歴を隠して居所を転々とする女。切れそうなつながりを懸命に手繰り寄せる男。さてさて、二人が出逢ってどうなるか?が最大の見所です。運命の女=ファム・ファタルものでお約束のオチではあるものの、お話しのもっていき方が優れています。2018/01/09
紫
26
ダニーの気持ちで読んだり、クラッシーに味方しながら読んだり。私は愛する夫と、可愛い娘たちと、元気な母に囲まれて、クラッシーより幸せだと感じた。2013/06/04
Ayah Book
22
カットバック方式を使用して書かれた何とも映像的なミステリ作品。韓国映画やドラマにありそうなトリッキーな語り口は、最後まで面白く読ませる。ストーリーはもちろんだが、この作品の一番の見どころはクラッシーという一人の美女の、その生き様だろう。まさに男性作家がファム・ファタールとして思い描きそうな魅力に溢れた女。ステレオタイプではあるかもしれないが、情なんかには流されないその潔さは、いっそ清々しくもある。クラッシーをどう思うかで、この作品の評価が分かれそうではある。私は好きだ。2025/01/22