出版社内容情報
吾輩はウジェーヌ・ヴァルモンである。パリ警察ではひとかたならぬ働きをしたものの、ロンドンから来た長身の私立探偵(敢えて名を伏す)も絡んだ一件の責めを負わされ、敢えなく馘首。余生は風流韻事と洒落てもよかったが、事件のほうが吾輩を離してくれない。ドーバー海峡を渡って探偵の看板を掲げ、粉骨砕身クライアントの要望に応える日々である。本書でその一端を明かすとしよう。吾輩に劣るとも勝らない迷探偵の二掌編を巻末に附す。
内容説明
吾輩はヴァルモンである。パリ警察ではひとかたならぬ働きをしたが、ロンドンから来た長身の私立探偵(敢えて名を伏す)も絡んだ一件の責めを負わされ、あっさり馘首。ふむ、陽春白雪の曲に和する者少なしとはよく言ったものだ。余生は悠々自適と洒落てもよかったが、事件のほうで吾輩を放してはくれぬ。従って、霧の都でも依頼人の要望に応える日々。本書でその一端を明かそう。
著者等紹介
バー,ロバート[バー,ロバート] [Barr,Robert]
スコットランド、グラスゴー生まれ(1850‐1912)。4歳でカナダへ移住。教職の傍らルーク・シャープ名義で執筆を始める。新聞社勤務を経て、英国で月刊誌「アイドラー」を創刊
田中鼎[タナカカナエ]
東京都生まれ。京都大学、千葉大学大学院に学ぶ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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へくとぱすかる
63
作者が没して1世紀以上。立派に古典です。それっぽく擬古的な訳文なのに、すごく現代性がある。まともなミステリを、斜めから鼻で笑うようなパロディ感覚にあふれた短編。フランスの探偵ヴァルモンが、事件を解決した…のかな? 出し抜かれ、失敗にすら見える話もある。作者のペンは英仏双方をダシにして諧謔に走っていく。それでもミステリ的に意外な結末は、読み終わって不思議さにとらわれる。併録のホームズのバスティシュには冷や汗。よくドイルが怒らなかったものだが、訳者あとがきで納得。夏目漱石が読んで「猫」に書いた? 作品も驚き。2021/04/07
本木英朗
24
英の古典ミステリ作家のひとりにして、アーサー・コナン・ドイルと友人であったという作者の、日本オリジナルの作品である。俺は「放心家組合」だけは、創元や早川などで読んでいた。しかしこれは超すごかった!の一言である。とにかく読もう、それしかないってば! さすが作者バーである。もう負けたとしか言えないよ。あ、国書から2010年に出ていた『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』の方でも1,2編出ていたが、やはりこの創元新編の方がよかったよ、うん。そういう意味で訳者もすごいとしか言えないなあ。またいつか読もうと思う。2020/12/26
みつ
19
フランス人探偵ヴァルモンも作者ロバート・バーも、その名にかすかな記憶の痕跡を留めるが明確には覚えておらず、目次で『放心家組合』があることを知り、一挙に読書体験が蘇る。乱歩選の名作短編集で何回も読み、変わった作品との印象が強かったが、今回読むと現代的な犯罪にも通じるものがあって驚き。全体を通じては、滅多に使用されない漢語を駆使して大見得を切る一人称の語りが当時の挿絵と調和し、古色蒼然とした魅力を放つ。ホームズもののパロディ2編ともども、謎解きそのものよりも、プライドが無闇に高い名探偵の描写に本領がある。2022/08/29
スプリント
13
超人的な能力をもつわけではないが、それが良い。 2021/04/03
Inzaghico (Etsuko Oshita)
10
訳文にぶっ飛んだ。旧版の新装版かと思ったら、帯に堂々と「名作ミステリ新訳プロジェクト」とあるではないか。ということは、旧訳はあるが、新しく訳し直したもの、ということだ。この言葉遊びたるや、好事家でなければ無理だ。訳者あとがきや東京創元社のサイトを見ると、本になるまでに15年かかったと書いてある。15年……。創元社のサイトの「第二のインタビュー」に「生まれたばかりの子供が中学を卒業するまでと考えたら、途方もない歳月です」とあるが、ほんとにそうだよ。2020/12/15