感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
272
タイトル通りのスパイ小説ではあるのだが、読む前の想像とは随分違ったものであった。最大の違いはテンポが遅いこと。次から次へとプロットが展開してゆくものだと思ったら、これが大いなる誤算であった。もっとも、これを小説の面白味として見ることができるかどうかで、本書の評価が分かれるところだろう。ちなみに、私にはやや冗長だった。もっとも、1937年ということを考慮に入れると、もう少しスリリングなものとして映るだろう。しかも、主人公が無国籍であることを余儀なくされていることもまた、強固に時代状況を反映しているのだから。2016/06/27
absinthe
190
戦前に書かれたスパイ小説の記念碑的作品。完全な素人探偵で、枠組みは証拠探しの探偵ものである。歴史的意義は認めるが、現代の読者にはどこか物足りないかも。他人の部屋を気づかれないように物色する。カマをかけて他人に口を割らせる。素人ながらに推理する。現代では推理ものも本格推理と社会派推理は別になり、スパイものも様々な広がりを見せているが。様々なジャンルの要素を少しずつ併せ持つ、不思議な感じがする仕上がりとなっている。2021/09/14
セウテス
67
〔再読〕第二次世界大戦の少し前、南フランスに休暇で来ていたハンガリーの青年の物語。彼が現像に出したフィルムの中から、機密施設の写真が見つかり、スパイ容疑で警察に逮捕されてしまう。彼はホテルで取り違えたと思われるカメラの持ち主を探し出し、無実を証明しなくては為らなくなる。スパイ小説と言えばアクションと思うだろうが、本作はただの青年が行うスパイ探しのフーダニットだ。出だしから即逮捕と興味湧くスタートで、国籍の違いからくる登場人物の特徴の違いも愉しめる。時代による悲痛な状況を、笑いも交えて問ている様にも感じる。2016/12/08
NAO
63
第二次大戦直前の緊迫状態にあるヨーロッパ。水面下でのスパイ合戦は、日常茶飯事のように行われている。そんな中、無国籍の青年ヴィダシーにスパイの嫌疑がかかる。いくつもの国のスパイが暗躍している地帯で、無国籍の青年が捕まるということの意味。シリアスな国際状況と、スパイなどとは無縁の教師ヴィダシーのスパイ探しというユーモラスな展開。怪しげな人物にはそれなりの理由があり、ヴァダシーの推理は常に空回りする。ホテルの客たちのお国柄といい、ただただスリルを求めただけのスパイ小説ではないところが、作者の狙いか。2018/11/01
きりぱい
9
和田誠『物語の旅』で紹介され気になって。休暇で南仏にきていた青年は、現像に出したフィルムがもとでいきなりスパイ容疑で逮捕。弱みもあって警察に協力することを迫られるという、何だか全然スパイでもない民間人が巻き込まれる形の可哀そうなストーリー。手際の悪さで奮闘は空回りと、警察の思惑を早合点してばかりなのは苦々しいけれど、気の毒なのも確か。おかげで、舞台はホテルと狭いながら、不確かなお国柄もぞろぞろと客たちの隠されたドラマが明るみになって面白くもなる。2012/12/08
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