出版社内容情報
名門出の青年が職を得たのは、〈夢宮殿〉。迷宮のような建物の中には、選別室、解釈室、筆生室、監禁室などが扉を閉ざして並んでいた。ノーベル文学賞候補作家による幻想と寓意に満ちた傑作。
内容説明
そこには、選別室、解釈室、筆生室、監禁室、文書保存所等が扉を閉ざして並んでいた。国民の見た夢を分類し、解釈し、国家の存亡に関わる夢を選び出すこの機関に職を得た青年は、その歯車に組み込まれていく。国家が個人の無意識の世界にまで管理の手をのばす怖るべき世界を描いた、幻想と寓意に満ちた傑作。
著者等紹介
カダレ,イスマイル[カダレ,イスマイル][Kadar´e,Isma¨il]
1936年、アルバニアのジロカスタル生まれ。ティラナ大学卒業後、モスクワのゴーリキー文学大学に留学したが、アルバニア・ソ連関係が悪化し、1960年に帰国。ジャーナリストとしていくつかの雑誌に関わり、さらに詩、小説、評論を発表するようになる。『死者の軍隊の将軍』で一躍、世界的な作家に。ノーベル文学賞候補にも幾度も名があげられている
村上光彦[ムラカミミツヒコ]
1929年長崎生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。フランス文学・比較文学専攻。成蹊大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
TATA
45
アルバニアを代表する作家であるカダレの作品。同国を旅行するに際して文化、歴史的な背景を理解できればと一読。オスマントルコ支配下のアルバニアで夢を管理する政府機関に勤めることになった青年を中心としたディストピア作品。作中からは全体主義に対する風刺が読み取れるが、むしろカダレが生きた同国の歴史に照らせばバルカン半島の複雑な民族モザイクがはっきりと浮き彫りになってくる。海外小説というものはあらためて奥深いものだなと思う。2018/12/30
藤月はな(灯れ松明の火)
43
イスラム文化での『1984年』、『マイノリティ・リポート』、『PSYCHO-PASS』、『ハーモニー』的ディストーピア。フロイトは夢分析によって人の無意識の欲望を暴き出した。それは今まで人の手の届かなかった、人間が生きるための最後の逃げ場を奪うことになったのかもしれない。一族の威信を背負いながらアレムは他者の無意識である夢を管理し、解釈する仕事の徒労さと恐怖に怯えるようになるが、本人の意に反し、出世街道を歩まざるをえない。それは彼自身も社会のサンプルだからだ。アーモンドの蕾が綻ぶ時期なのにこの寂寥感と恐怖2016/02/11
syaori
30
広大な帝国の各地から人々の夢が送られてくるタビル・サライ――夢宮殿。幻想的な名前を持つこの宮殿は、しかし全貌の見えない不気味な官僚組織です。帝国にも同じような不気味さがあり、水面下起きているらしい不穏な動きも暗く深い穴の奥底で進行していて全くつかめません。他人の夢を読んでいた主人公が、気付くとその深い穴の底に引きずり込まれている様はそちらのほうが悪い夢のようです。人柱、アルバニア、キョプリュリュ家、諦念とともにそれらを背負い近い破滅を予見する主人公の絶望は、春を思う心があるために深いのだろうと感じました。2016/06/19
りつこ
27
タイトルからめくるめくファンタジーを想像していたのだがまるで正反対であった。夢までも国家に管理されるまさにここはディストピア。冒頭から主人公は不安にかられ道に迷い何が起きているのかわからない。目の前にある仕事をこなし、自分の一族にふりかかる災難をかわしていこうとするが…。何一つ把握できないまま出世してしまい夢宮殿の灰色の世界に埋没していくかと思われた主人公が馬車の中から春の訪れに気付くシーンは不気味なほど美しい。2012/11/12
hiroizm
26
夢宮殿とは、あらゆる人々の夢を集めて調査し、治安に関わる秘密や未来の出来事を予測する政府機関。建物の巨大な迷路のような構造や謎めいた組織構成がミステリアス。ある夢から主人公の一族と皇帝派との先祖代々の積年の対立を表面化し、血みどろの政治闘争に発展する展開はなかなかスリリング、意外性あった。また対立のきっかけが一族に伝わるアルバニア語の武勲詩(叙事詩)なのも象徴的。アルバニアの歴史と併せて読むと、いろいろ深読みできて楽しいかも。2020/08/12
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