出版社内容情報
静寂のなか、ゆっくりと息をする。
あの人はなにをしているか、と考える。
ちょっと憂鬱で、でも甘い。
まったくありふれてはいないけれど、
わたしたちの近くで起きていそうな
煌めく五つの人間関係。
『この夏のこともどうせ忘れる』の作者が贈る、
夜の作品集。
三人は同じ日の夜に出会い、恋に落ちた。俺は彼女に。彼女はあの男に。そして、あの男が恋をした相手は俺だった。なぜ俺なのか、とあの男に訊いてみた。健やかな馬鹿がタイプなのだという。それって悪口じゃないのか? それはともかく俺たちの一方通行の三角関係は、しかしそれほど時間を置くこともなく、べつのものへと姿を変えていった(「明日世界は終わらない」)。さまざまな登場人物たちが織り成す、ひとことでは言い表せないような繊細な人間関係を描いた、この作者ならではの珠玉の五編を収録する。
■目次
「なにも傷つけないように、おやすみ」
「明日世界は終わらない」
「不自由な大人たち」
「家族の事情」
「砂が落ちきる」
あとがき
1 ~ 1件/全1件
- 評価
乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
hiace9000
120
これまで知る夜描きの名手、小野寺さんの「夜」とも千早さんの「夜」とも似て非なる、静かに語り紡がれる深沢さんの「夜」・五短編。少なくとも一般的に捉える“普通“の枠からはみ出す、言葉には成し得ぬ不思議で特別な、されどかけがえのない関係にある大人たちが描かれる。親密にして秘めやかな空気とその間に揺蕩いながらやがて通じ合っていく互いの感情。名もなき歪な感情が周囲に理解されない「うまくいかなさ」をも共有し合い、やがて読み手すら自身も知らぬ潜在的な心のツボが刺激され、同期してしまうような魅惑の言葉の数々…そんな、夜。2024/06/09
遥かなる想い
78
現代に生きる恋人たちを描いた短編集である。 ちょっぴりほろ苦く 執着しない 心根が心地良い。 誰もが心に抱える傷のようなものを、 何かを諦めて生きる心のうちを 残酷に描くのが 本当に上手い。 ちょっと不自由な関係に戸惑いながら、 前に進もうとする恋人たちの応援歌でもある、 そんな気がする短編集だった。2025/04/27
konoha
65
大人の恋を書いた5編。いびつで、一筋縄では行かない恋ばかり。最初はヒリヒリしてきついかなと思ったけど、だんだん読みやすくなった。親友の頼みで不倫相手と別れていく「不自由な大人たち」、双子の姉と自分の上司をお見合いさせる「家族の事情」が好き。家族、友人の間に恋に似た狂おしい愛情があるのが印象的。それが恋よりも強く登場人物の人生を支配している。駒鳥姉弟も「砂が落ちきる」の成田も、みんな乱暴だけど品が良い。クセがあって生きづらいはずの人たちが物語の中では生き生きしているのが良かった。2024/01/25
星群
65
初読み作家さん。なんとなく手に取ってみた一冊ですが、私好みの本でした。5編からなる短編集。どこか歪な形をした、人を想う気持ちがぎゅっと濃縮されている様に感じました。『なにも傷つけないように、おやすみ』が特にお気に入りです。眠れない夜に、こんな素敵な夢を観れたら次の日は絶好調に過ごせるはず。今年のランキング上位に食い込むのは間違いなしです。2023/11/30
sayuri
61
「なにも傷つけないように、おやすみ」「明日世界は終わらない」「不自由な大人たち」「家族の事情」「砂が落ちきる」5話収録の短編集。初読みの作家さんだったが、空気感がとても好み。身近にはいないけれど、ひょっとしてどこかに存在していそうな人達の人間模様が繊細な筆致で綴られている。どの作品からもヒリつくような痛みと共に、絶対的な寂寥感が押し寄せて来た。生きるのが下手くそで、でも優しくて愛おしい。派手な展開こそないものの歪さが徐々に溶けていく感覚が心地いい。寂しさをふうわりと優しく包み込んでくれる大人の為の作品集。2025/03/01