出版社内容情報
綾部蓮という青年は、私たちにとって遠い国の王様のような存在だった。神の贈り物と呼ぶべき肉体と才能に恵まれ、水泳の世界では栄冠を手中に収め、それでいていつも退屈を持て余していた。だから彼が自殺した時、その理由を知る者もいなかった――。誰もが彼の年齢を追い越していくなか私たちは思い出す。なぜ青年は自ら命を絶ったのか？ 人生の一時期に訪れる謎と恩寵を忘れ難い余韻をもって描き出す、期待の俊英による連作長編。
内容説明
私たちにとって綾部蓮は、遠い国の王様だった。神の贈り物のごとき肉体に恵まれ、水泳の才と美貌を気ままに揮い、その周囲に王国を築きながら、入水自殺した青年。永遠に若いままの彼を残して、それでも私たちの人生は続く。期待の俊英が紡ぐ、忘れ難き連作ミステリ。
著者等紹介
岩下悠子［イワシタユウコ］
１９７４年東京都生まれ。９７年『砂の蝶』が第２３回城戸賞を受賞。ミステリ・ドラマの脚本を数多く手掛ける一方、２０１２年に小説「熄えた祭り」を発表する。１７年に同作を含む連作集『水底は京の朝』を刊行。流麗な筆致と卓越した構成で、ふたつとない小説世界を紡ぐ俊英（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あも
77
理解されるより理解することを、愛されるより愛することを、私が求めますよう＿本書には様々な形の信仰が登場する。キリスト、仏教、イスラム。そして人が人へ託す崇拝。綾部蓮、神より水泳の才を贈られた美しく虚ろな王と、その王国に住まい苦しみ生きる者達。どうせ死ぬ身の生の中、誰かを求めて心を焦がす。全てから解き放たれて清らな水の流れを遡上するのは重たい肉と魂を持った身には難しいから。愛に似た信仰で、愛を殺そうともがく両足に煩悩と我執が絡みつく。それが罪でも神より人を愛する道を選ぶ僕ら輪廻から抜ける日など求めはしない。2020/01/19
おたけஐ೨💕🥒🍅レビューはボチボチと…
70
85/100点 京都宇治を舞台に綾部漣という青年の自殺に関する謎を描いた4話のミステリー連作短編集。全ての話しに密教・カトリック・イスラム教などの宗教観が流れている。それぞれの話が微妙に絡まりあって最後には収束され、読んでいる自分にも納得させられました。個性的な登場人物たちの中で猫堂という人物が一番好きかな。2020/01/16
konoha
56
生命の不思議と青春のほろ苦さが詰まった耽美な連作ミステリー。美しい容姿と才能を持ちながら、練習嫌いで軽やかに女性と遊ぶ大学生、綾部蓮。瑛子と猫堂の掛け合いが楽しい最初の話から、蓮をめぐる人々がくるくるとつながっていくのが面白い。謎もそう来るかというものばかりで人の思い、信念が生む行動に驚かされる。濃いキャラが多く、狐塚教授が校内で狐の面をつけているのが気になって仕方ない。つかみどころのない蓮の深い悲しみと孤独が物語の軸にある。豊富な知識と美しい文章から生まれる世界は匂い立つように濃厚。2024/02/14
あおでん@やさどく管理人
48
仏教、キリスト教、イスラム教。どの宗教でも、無心になって神へと言葉を唱える時間がある。それは、ひたすらに泳ぎ続けることとも似ている。それらに身を捧げる人たちと対比されるかのような、どこか飄々とした綾部の存在。周囲を魅了する才能と美貌を持った彼の内面を、「うつろ」と評したのは誰だっただろうか。そして、その「うつろ」を生んだ真実は、とても苦しくて切ない。2020/08/11
カノコ
47
類稀なる美貌と水泳の才能で、周囲の人間を傅かせ、一国の王たる存在だった綾部蓮。そんな彼が自死して後、彼を回想する人々の連作集。苛烈な恋は信仰で、敬虔な祈りは恩寵をもたらす。綾部に関わった人たちの思いや祈りの切実さに、まるで水の中にいるかのように息が苦しくなった。自分を律して繰り返す真摯な行為の意味が、それぞれの「信仰」という宗教的モチーフを扱いながら繊細かつ流麗な文章で綴られる。時に冷たく、時に熱く、常に流れるような文章が、素晴らしくいい。まるで誰かの美しい夢を覗かせてもらったような読み心地。とても好き。2019/11/22
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