内容説明
「六甲山に小さな別荘があるんだ。下の街とは気温が八度も違うから涼しく過ごせるよ。きみと同い年のひとり息子がいるので、きっといい遊び相手になる。一彦という名前だ」父の古い友人である浅木さんに招かれた私は、別荘に到着した翌日、一彦とともに向かったヒョウタン池で「この池の精」と名乗る少女に出会う。夏休みの宿題、ハイキング、次第に育まれる淡い恋、そして死―一九五二年夏、六甲の避暑地でかけがえのない時間を過ごす少年たちを瑞々しい筆致で描き、文芸とミステリの融合を果たした傑作長編。
著者等紹介
多島斗志之[タジマトシユキ]
1948年生まれ。早稲田大学卒。1985年の初長編『〈移情閣〉ゲーム』(別題『龍の議定書』)以来、国際謀略小説の秀作を次々に発表。次第に作風を変え、『不思議島』では本格推理、『海賊モア船長の遍歴』では時代冒険小説に挑むなど様々なジャンルの小説を発表、そのいずれもが練り上げられた作品で評価も高い。2003年の『離愁』以降は文芸作品の執筆が続いていたが、待望の新作である『黒百合』は作者が文芸とミステリを融合させ、その才人ぶりを遺憾なく発揮した傑作である(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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みも
194
読友さんが良作とご紹介されていたので。極めて巧緻な技が光る緻密なミステリー文学。昭和27年…六甲の別荘地で出会う3人、14歳の少年・少女のひと夏の交流を回想形式で綴る。良家の子女・子息の初恋の羞恥や虚栄が漂う主旋律は、凪いだ湖面に映る深緑の山影の様な瑞々しい文体で、他愛もない出来事を誠実に抒情的に訥々と語る。それはあたかも少年時代に慣れ親しんだ清涼飲料水の味わい。しかし、事も無げに挿し込まれる戦前・戦中の別エピソードは、清涼素麺に密かに紛れ込ませたゴーヤの如し。その苦みが美味いか不味いかは読者の洞察次第。2020/07/16
モルク
97
10年来読みたい本として記録してあったが、ついに手に取る!昭和27年六甲山の別荘地を舞台に、14歳の少年少女の出会い、淡い想い…そして合間に昭和10年のベルリンでの話が入る。東京から父の友人の持つ別荘に滞在した主人公。同じ年のその家の息子、そして別荘地で知り合う少女。当時の上流階級のお嬢様としては枠を外している感はあるが、そこがまた彼女の魅力。彼女に惹かれる少年たち。お互いに牽制し歪な三角関係となる。そこに殺人事件、急にミステリー。最後の真相で途中の違和感が解かれていく。ミステリーというより初恋物語。2020/07/28
aqua_33
70
多島さん初読み。14歳の2人の男の子と1人の女の子が六甲の別荘地で出会い、微妙な三角関係を築き、読んでるものには甘酸っぱい青春物語を感じさせる。というのは表の顔で裏は何とも複雑怪奇なミステリー。思いっきりミスリードされ、最後に真犯人を知り驚愕。が、イマイチスッキリせず、ネタバレサイトへGo。そこで二度目の驚愕。うーん、素晴らしいとずるいが紙一重の作品。でも嫌いじゃない。《2018年60冊目》2018/03/18
chiru
69
ミスリードに気付かない場合、少年少女のひと夏の友情&初恋物語で終わってしまう。初恋物語だけでも完成度が高いため、ぼんやりしてるとどこがミステリーなのか不明になりそう。頭の中で系図や時間軸や名前を整理して進まないと、わからなくて、読むのにすごく時間がかかってしまった。わたしがここは絶対おかしいなと思ったのは『肉体の深みには入ることのないママゴトのような交際』の部分だけ。他の伏線に一切気付けなかった。騙されても爽快ですらあるすごい作品でした!★52017/12/19
たか
68
少年少女のひと夏の淡い恋物語を縦軸に、戦前のベルリンの女の話と車掌と女学生の恋物語を横軸にして、物語は進行していく。 ラストで明らかにされる叙述トリックと読者をミスリードさせるレッドヘリングの仕掛けが鮮やか! 探偵役がいないために、唐突に訪れるラストの真相に一瞬ついていけなくなる。ページ数が少なく、シンプルなストーリーだからこそ驚愕度は大きい。B評価2018/09/09