内容説明
―昭和二十一年三月十七日。乙文明は九州大分の沖合に浮かぶ満月島を目指して船中にあった。鬼角島の異名を持つこの孤島には、戦友神坂将吾がいる。明日は若き網元の当主たる将吾の祝言なのだ。輿入れするのは寺の住職三科光善の養女優子。祝言は午後七時に始まり、午前一時から山頂に建つ寺で浄めの儀式があるという。翌朝早く、神坂家に急を告げる和尚。駆けつけた乙文が境内の祈祷所で見たものは、惨たらしく朱に染まった花嫁花婿の姿であった…。―この事件に挑むのは、大分県警察部の兵堂善次郎警部補、そして名探偵藤枝孝之助。藤枝が指摘する驚愕のからくりとは?続発する怪死、更には十九年前の失踪事件をも包含する真相が暴かれるとき、満月島は震撼する。第十四回鮎川哲也賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょろこ
134
掘り出し物ミステリの一冊。時は昭和21年、舞台は鬼角島という孤島。祝言をあげたばかりの花婿花嫁の朱に染まった無惨な姿が…というおどろおどろしい事件で幕開け。そこには複雑な因縁があるのか…と、散りばめられた文句なしの横溝要素。そしてなんといってもこの島に漂うどこか美を含みつつの陰湿な横溝空気感がたまらく心を誘う。警察、探偵、花婿の友人が多角的に切り込む事件の真相も一筋縄ではいかない、焦(じ)らされ感で存分に味わえた。そして人の醜い欲望、心に巣食う鬼の姿も。掘り出し物お宝チックなミステリ、面白かった。2022/01/13
nobby
122
これスゴかった!序盤から早速まるで横溝さんな世界観にワクワク!“鬼角島”と聞きながら、むしろ角に纏わる怪異と思いきや最後には狂乱の鬼がいた…とにかく限られた舞台や人物達の中で起こる壮絶なる惨劇は、悪態つく疑わしき存在も分かりやすい。狂気の殺戮ぶりや鰹節に棺桶など異質ながら絶品の謎解きを、何とも潔くひっくり返すのが斬新過ぎ!その一方で19年前の失踪などモヤモヤ残る「据わりの悪さ」をスッキリ解消はお見事!だいぶ説明くどいけど(笑)ラストどもりながら髪掻き廻す小男の登場に、なるほどそれで昭和21年3月なのかと♬2022/02/03
モルク
107
昭和21年。復員してきた戦友の祝言に孤島満月島(鬼角島)を訪れた乙文。祝言の翌朝山頂の寺の密室である祈祷所で新夫婦の惨殺死体が見つかる。乙文は犯人探しのため島に残りそこには県警の警部補と探偵藤枝が絡む。時代といい横溝作品「獄門島」を思わせ、ラストに出てくる小男は「彼」だろう。まさに横溝正史オマージュ作品。ワクワクする展開、二転三転の衝撃。所々時代に合わない(新婦の友人が祝言に参加、当時漆黒であっただろう山の夜道を女だけで歩く等々)のもあるが何しろ作者はお若い。今後の作品にも期待大。2022/02/17
chiru
105
本作は、横溝オマージュというハンデをものともせず、逆に武器にして、アイデアとセンスと若さで戦ったアツい作品!といっても雰囲気は冷たく忌まわしい。これから幕を開ける物語が忌むべきなにかを秘めている…という想像どおりに事件が起こる。鬼角島・閉鎖的・因習・素人探偵が揃う中盤と終盤に超展開があり「まさかそういうこと!?」と思った時には動機のエグさとメインキャラの真意に絶叫。巧な伏線が成立させる真相といい、それが明かされる演出といい、細かい部分の意外性もよかった!切実さに胸を打たれるラストが忘れられない。★4.52022/02/04
aquamarine
93
第14回鮎川哲也賞受賞作。そこここに横溝作品へのリスペクトが現れる。まるで「獄門島」のような始まりに、祝言の夜の密室殺人事件、島という閉鎖空間の因習と言い伝え、19年前の事件…。殺人の動機と犯人は見えた気がして、中盤明かされるトリックに感嘆していたら、それがまた二転三転するサービスの良さ。本当の鬼はなんなのか…なにがそこまで駆り立てる?デビュー作ゆえか少々余計に思えたり気になったりした部分はあったが、おどろおどろしいモノクロの世界を堪能。ラストの遊び心にもクスリ。読めて良かった。2022/01/23
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- 和書
- 大きな字の歎異抄




