内容説明
ありふれた老人ホームの一夜。女性五人、男性三人、計八人の老人と、そして一人の寮母。いつもどおりの夕食と、作業と、お楽しみ会と…。老人たちはそれぞれ、体力も知力もまちまちで、歩けない人もいれば、痴呆状態の人もいる。周囲の動きに関わりなく、それぞれが自分だけの世界にひきこもって過去を懐かしみ、現在を思い…あるいは何も思わず(?!)…それでも、一夜の時は共通に流れていく。寮母の声に現実に引き戻されて、八人の行動と思考はシンクロし、また離れ…。独立した九章が同時に進行するという実験的スタイルが、老いの真実を、そして人間の真実を、滑稽にあるいは残酷に浮き彫りにする。
著者等紹介
ジョンソン,B.S.[Johnson,B.S.]
B.S.Johnson(1933-73年)。イギリス、ロンドン生まれ。ロンドン・キングズ・カレッジ卒。処女作でT・S・エリオットに認められ、グレゴリー賞を受賞。その後、次々に実験小説風の作品を発表し、三作目の『トロール』でサマセット・モーム賞を受賞。ジョイス、ベケットの後継者として脚光を浴びた。創作活動は、小説のみにとどまらず、戯曲や詩作品にも及ぶ。映画・TV作品も手がけ、自ら監督も務めた。1968年には、世界短編映画祭でグランプリを受賞。1973年、ロンドンの自宅で自殺
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
92
老人ホームを舞台にした同時進行老人喜劇。 同じ一夜の同じ場面が、9人の登場人物の其々のパートの章の同じページ、同じ行に浮かび上がる 立体的な作りになっているユニークな本。 ☆3.02021/05/02
いちろく
36
8人の入居者と1人の寮母が過ごした、とある老人ホームの一夜の出来事。同一時間軸における登場人物達の状況を、紙と文字を利用して9の短編で表現した作品。同じ出来事を経験しても、一人ひとりの見方や感想は異なる。加えて健康状態が違えば状況すら異なる。多角的な視点から視えてくる内容は、その事を改めて教えてくれた。単なる良い話ではなくブラックユーモアな所が、よりリアルな日常を表現している点にも繋がっている。最後に、紙と文字でどのように同一の時間を表現したか?それは、この本を手に取った人だけが感じられる驚きでもある。2018/04/25
keroppi
33
BRUTUS「危険な読書」で奇書・珍書として紹介されていた本。ある老人ホームの一夜、8人の入居者と寮母の意識と行動が同じ時間で綴られているという実験的構成。上部にもページが書かれていて、それはそれぞれに呼応する。人によっては真っ白いページが続いたりする。何度も前後を見ながら読み進んだ。コメディとは言いながら、老いていくことの現実かもしれない。過去の想いと認識出来ない現実。老いても、真っ白いページにはなりたくないものだ。2017/02/02
ヒダン
16
八人の入居者と一人の寮母それぞれの視点から同じ一夜の出来事を描写する。各人物の同じページ、行に対して外では同じ時間が流れている。つまり一行当たりに込められた時間が等しい。さらに入居者の老いの進行度合いも様々だったり実験的な小説である。しかし外面的な実験による面白さよりも老人視点の文章の生々しいリアルさの方が印象的で、例えモップで叩き合いをさせられている時でも、笑える感じではなかった。痴呆老人の人間らしさと健康な寮母の不健全さの対比と解説にあったが、これは老人ホームの運営としては成功でありパラドキシカルだ。2016/11/14
やまはるか
14
木原善彦「実験する小説たち」を読んで再読。寮母1人と8人の老人が暮らす老人ホームのある1日を9人の独白で描く。寮母1人と老人8人の構成自体が既成の老人ホームとは異なる閉鎖空間として設定され、ありふれた日常も認知症の老人のとぎれとぎれの意識のもとでは恐怖か滑稽として呟かれる。最後に登場する寮母の独白で老人を食い物にするホームの内実が明かされ、寮母がテーブルに上り、老人相手にストリップを始める。2013年の初読ではこんな場面は全く記憶にない。確かに「一夜のコメディ」の副題が付いている。老人ホームは実験の材料。2020/12/03
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