内容説明
ある町で、ある外科医が妻を殺し、バラバラにしたその体の一部を四人の子供の体内に埋めこんだ。幼いころ、そんな奇怪な事件の話をしてくれたのは、三十年間の失踪から戻って死の床に伏していた祖父だった。いまわたしは裕福な中年となり、ここパラダイス・モーテルで海を眺めながらうたた寝をしている。ふと、あの四人の子供のその後の運命がどうなったか、調べてみる気になった…虚実の皮膜を切り裂く〈語り=騙り〉の現代文学。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nina
29
デビュー作である短篇集『隠し部屋を査察して』に収録されている一篇から、登場人物のその後を描く形で長篇として物語を拡大させた作品だと思うのだが、本書の方が先に翻訳されたのか、訳者あとがきにその旨の説明はない。彼のどの作品にも共通する奇想のイメージが随所に織り込まれており、油断するとそのおぞましい光景が脳裏に焼き付けられ直後に胃のむかつきをおぼえるほどだが、観察者である主人公のクールな渋いテンションの語り口と、彼と恋人との形而上学的な会話に惑わされつい何度でもつい引き戻されてしまう。2015/01/02
春ドーナツ
19
「幼いころ、(略)奇怪な事件の話をしてくれたのは、三十年間の失踪から戻って死の床に伏していた祖父だった。いまわたしは裕福な中年となり(略)ふと、あの四人の子供のその後の運命がどうなったか、調べてみる気になった」(カバー見返しのあらすじ抜粋)マジックリアリズムというのは際限のない何でもありの世界なのだろうか。あるいは国境の南のように、一応境界線みたいなものはあるのだろうか(読者を白けさせないために)。ただひとつ言えることは、本書は途方もなく珍奇な代物なので、何かに呑まれるようにページをめくる速度が上がった。2020/09/06
三柴ゆよし
14
「わたしはわたしではない。哀れなわたしの物語よ」。「わたし」とは、いささかのトートロジーを承知で言及すれば、「わたし」のなかに「埋めこまれた」無際限の物語の集積にすぎないだろう。「わたし」を形作る物語を求めるこの物語は、畢竟「わたし」を求め見出すための物語であるが、実のところ、その「わたし」というのは物語のなかにのみ存在し、回収されるものなのだから、この結末はむしろ必然といえよう。小説としての出来はけして完璧とはいいがたいが、ひとつの真理をたしかに射止めているという点において、稀有な小説である。2011/06/19
アカツキ
9
エズラは30年間失踪して寿命が尽きる前に戻ってきた祖父から、ある外科医が自分の妻を殺して四人の子供たちの腹に妻の身体のパーツを隠したという話を聞く。その後、白髪頭の中年になったエズラは恋人にその話を語ってみせると、恋人からその四人のマッケンジーはどうなったのかと聞かれる。エズラは気になって調べ始める…。小説の中にいくつもの奇想天外な短編が織り込まれている感じ。面白かったけど、結末にポカーン。えぇ…?2021/02/13
mejiro
9
「パタゴニアの悲しい物語」に登場する4人の子供たちが謎として再び現れ、主人公は彼らの消息を追う。『隠し部屋を査察して』とリンクする構成がユニーク。いったい何を読んでるんだろう?と、読みながら我にかえるほど奇妙な読書体験だった。知識や効用とは無縁で、ある意味、小説の純粋で贅沢な愉しみを味わえると思う。結末は賛否が分かれそう。まあ、話の発端が発端なので…。解説がよかった。本書はマジックリアリズムの系譜に連なるらしい。このジャンルは理解不能かと思ってたので、読めてよかった。 2018/06/12
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