内容説明
「季刊落語」編集部勤務を命ず。という衝撃の辞令から一年。落語と無縁だった新米編集者・間宮緑は職場に定着し、時に名探偵ぶりを見せる牧大路(まきおおみち)編集長の透徹した洞察力に舌を巻きつつ落語編集道に精進する日を送っていた。「静岡に行ってくれないかな」突然春華亭古秋一門会の取材を命じられ、北海道へ出張している牧の名代として緑は単身現地入り。この一門会は、引退を表明している六代古秋が七代目を指名するという落語界の一大関心事。何故こんな片田舎で?ここ杵槌村はかつて狐の村と呼ばれ温泉郷として栄えたが、今や往時の面影はない。世襲とされる「古秋」の名をかけて落語合戦に挑む当代の息子古市、古春、古吉。いずれ劣らぬ名人芸に感心しきりの緑。一門会直前、折からの豪雨に鎖され陸の孤島と化した村に見立て殺人が突発する。警察も近寄れない状況にあっては、電話でいくら訴えても牧とて手の打ちようがない。やがて更なる事件が。犯人捜しと名跡の行方、宿悪の累が相俟って終局を迎えたそのとき、全ての謎が解ける。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
雪紫
59
「結局、おまえも落語のことしか考えておらんようだな。芸のため、名誉のためなら人の生き死になど考えない」芸を身を滅ぼす。という言葉がありまして、意味は無視して言葉通りに受け取るならこれほどふさわしい話はございません。妹いるけど三兄弟、後継ぎ、見立て、寂れた村に祟りババア。ミステリの定番を落語の見立てと芸に生きる者達によって独自の色をかもしだします。おあとは・・・よろしくないようで(むしろそっちが本番かのようにゾッとした。そして牧編集長、色々調べたり苦労してきただろうけどむしろデウス・エクス・マキナだよ)。2023/01/08
真理そら
40
落語・七度狐の化かし方に見立てた連続殺人、孤立した村ですべての登場人物が怪しい。そこはかとなく横溝風味もあり、事件解決後はアガサ・クリスティの作品を連想したり。落語家一家の襲名問題やら間違い殺人やら出生の秘密やら、楽しめる要素満載の贅沢な作品。身近にいた人は年月が経っても分かるんじゃないのかなあ、という疑問は残るが、まあいいか。2019/08/09
kazu@十五夜読書会
36
落語シリーズ2作目。デビュー短編のあと第2作は上方落語の演目の一つ「七度狐」を、題材に春華亭一門の諍い・名跡を継ぐ後継者争い内輪の話を、現在は過疎で寂れた杵槌村の温泉地で進行する復讐劇・過去の5代目師匠の行方不明事件を絡めて描く長編ミステリー作品です。当代6代目古秋の次代、七代目・春華亭古秋の名跡を継ぐ後継者の指名一門会を寂れた寒村の温泉地で行われる事になったが、後継者達が豪雨で村の道路が寸断された中事件が……復讐の犯人の正体が初期でわかってしまうが、伏線を落語のネタ・落ちで固めた構成が見事!2013/04/30
こにゃ
19
落語シリーズ2作目。時々作中の時間経過に???となりましたが、面白く読了。割と早い段階で実行犯は分かります。ですが、残りのページ数から考えると『まだ何かある…』と思い読み進めると。そう来たか!そうやったんや…。こう繋がるのか。少し強引な部分もありますが、とても上手く纏まっている作品だと思います。2013/05/16
jima
19
落語シリーズの2作目で長編。上方落語「七度狐 」をなぞるように殺人が。古秋の名跡を継ぐ後継者の指名争いもからみ合う。2013/05/11