出版社内容情報
南北戦争で両親を亡くした少女は兄の手で自分を虐待するおじ一家から助け出されたが、さらに残酷な外の世界を知る(「よくある西部の物語」)。ある少年は、服役中の父親と暴力をふるう義父の間でもがいている(「ジェイムズ三世」)。19歳の女は難民キャンプで襲撃を受け、誘拐されて消えた(「外交官の娘」)。暴力に満ちたさまざまな時代と場所で、血まみれで生きる人々の一瞬の美しさを切り取る。O・ヘンリー賞受賞作ほか10編収録の珠玉の短編集!
内容説明
西部劇の舞台のような町、黒人奴隷が鞭打たれるプランテーション、現代アメリカの壊れた家庭、砂に埋もれたユートピア、16世紀イギリスの修道院…。暴力と欲望に満ちたさまざまな時代と場所で、夢も希望もなく、血まみれで生きる人々。人間の本質を暴き出し、一瞬の美しさを切り取った、O・ヘンリー賞受賞作「よくある西部の物語」ほか全10編収録のデビュー短編集!
著者等紹介
ベンツ,シャネル[ベンツ,シャネル] [Benz,Chanelle]
カリブ海東部のアンティグア・バーブーダにルーツを持つ。米国テネシー州メンフィス在住。ローズ・カレッジで教鞭をとるかたわら、“フェンス”、“グランタ”などの文芸誌の誌面やサイトに短編を発表している。2014年に、「よくある西部の物語」でO・ヘンリー賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
118
容赦のない暴力と理不尽さが際立つ「よくある西部の物語」。その印象が強すぎて、後の短編が少し霞む。破滅しかない方向に行くのに銃が存在を主張し過ぎに思えるからかもしれない。特に「思いがけない出来事」については、それが無ければもっとよかったのに。「オリンダ…」の場合は、その使われ方は悪くなかった。私は所詮報道で見せられたものから想像するだけだが、BLMでの一部の無法ぶりは、これを読んだいま、何かを捉えられるような気がする。西部、無法者、という単語の文字の意味が迫ってくる。2020/06/21
藤月はな(灯れ松明の火)
84
普段は知らん顔をして見ないようにしているが、内包されている荒涼とした暴力を描いた短編集。映画『悪の法則』を思い出させる作風です。無垢で大仰なお節介の怖さと滑稽さを思い知らされる「アデラ」。子供ならではの残酷さとラストの懺悔と祈りが幼き頃の傲慢さへの悔いを再び、燻らせた。「外交官の娘」はナターシャの傭兵だった頃に妹エラが俗物でエゴイストの母親に依存せざるを得なかった事の仄かしの方が怖いと思ってしまう。「思いがけない出来事」は父親が屑過ぎて…。2020/07/30
harass
82
レビュより手に取る。多様な技法を駆使して描く、さまざまな時代と場所の暴力と差別の悲痛な救いのない短編集。ありがちな内容だが、ときおり詩的な表現にハッとさせられる。このエグさはフラナリー・オコナーを連想。調べると海外の書評では、フォークナー、フラナリー・オコナー、コーマック・マッカーシーと比較されるようだ。万人に勧められるものではないが、小説好きにはぜひ。おすすめ。2020/07/06
ヘラジカ
70
目を惹かれる印象的なタイトルはマチズムを感じさせる。しかし、実際には血腥い暴力性のなかで翻弄される女性や虐げられる弱者を主に描いていて、繊細ながら非常に美しい作品が多かった。これこそ珠玉というに相応しい短篇ばかり。いくつかの作品は唸るくらいに良かった。時代もスケールも構成も多種多様で、この作家の才能の大きさと奥深さに驚かされる。一冊でファンになってしまうほどの傑作短篇集。全部良いが強いてお気に入りを挙げるなら「よくある西武の物語」「オリンダ・トマスの〜」「われらはみなおなじ〜」の三作。2020/05/20
Panzer Leader
67
社会的弱者たちが今以上に不幸に陥るやるせない物語が多い。暴力的で血生臭い展開なのに、詩的な表現故かドロドロとした情念さは感じられず、むしろ繊細な作品と思える。一話30ページ程ながらその短さを感じさせない濃密さは癖になりそう。2021/04/15