内容説明
世界に誇りうる名著『アイヌ神謡集』を編んで、19歳で世を去った知里幸恵…。本書は、20世紀初頭を駆けぬけた彼女と『神謡集』の魅力を、各界で活躍する33人の人びとが熱く書き、かつ語った初の本格論集です。仏・英・露3ヵ国語による翻訳の試みも収載。
目次
第1編 今に生きる知里幸恵
第2編 『アイヌ神謡集』を読む
第3編 対話/コスモポリタンとしての幸恵、そしてアイヌ文化
第4編 アイヌ文化の広がりを求めて
第5編 対訳・梟の神の自ら歌つた謡「銀の滴降る降るまはりに」
付編 知里幸恵、東京での一二九日(小野有五編)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
とよぽん
12
文字をもたないアイヌの人々。その口承文化を、「アイヌ神謡集」として書き残して夭逝した知里幸恵さんの19年という生涯を思う。和人に差別され、高等女学校に入学を許されなかった。しかし、彼女の聡明さはキリスト教に支えられ、民族に伝わる神謡をローマ字で表記し、さらに日本語に訳すという大事業を成し遂げる。アイヌの人々が、自然や神と共に生きる生活の美しさ、厳しさを、神謡を聴いて感じたい。2016/10/23
Yuko
8
<世界に誇りうる名著「アイヌ神謡集」を編んで、19歳で世を去った知里幸恵…。20世紀初頭を駆けぬけた彼女と「神謡集」の魅力を語った本格論集。仏・英・露3ケ国語による翻訳の試みも収載。知里幸恵生誕百年記念出版。> 2003年 33人がそれぞれの立場から書いた「神謡集」の魅力。 知里幸恵という個人が、アイヌの知恵に限らず、自然の前で生きる人間すべてが共有する普遍的な大いなる知恵と、広い神話の世界への入口であるという池澤夏樹さんのエッセイがとても良かった。 2019/10/11
雨彦
5
「知里幸恵 東京での129日」が読みたくてひもとく。記念館建立のためのPR本かと思いきや、さにあらず。なかなか豪華な執筆陣で、読んで損はないどころか益するところが多かった。2013/07/02
くまこ
5
「銀の滴降る降るまはりに、金の滴降る降るまはりに…」というフレーズに魅せられて、知里幸恵の生涯に関心を持つようになった。本書の第五編には、アイヌ語の解説と英・仏・露語の対訳が収録されている。現代の私達は日本語という文字言語から外国語へと容易く変換できるが、文字のない状態からローマ字を経て、日本語につくり直した作業というのは想像を超える。改めて知里幸恵の業績に敬意を表したい。2012/05/26
ぱせり
4
「人と人をつなぐ」という言葉に心動かさせられる。これを他ならぬアイヌの人のほうから差し出されたのだ、ということに。しかもそれをしたのが19歳で逝った小柄な少女であったということに。彼女が残した小さな本をきっかけに、たくさんの人たちが自分の物語を作り始めているのを感じる。そして忘れてはいけない。日本は決して単一民族の国ではない、ということを。2009/03/01