内容説明
本書はまず何よりも、一般的な意味での日記である。人生や仕事の悩み、主婦として家事を切り盛りする気苦労、家族の問題などが、実に素直な飾らない筆の運びで吐露されている。と同時に本書は文学的ジャンルとしての日記でもある。日本の古典小説『源氏物語』の翻訳に取り組んだ著者が、紫式部との対話を通して考えたり感じたりしたことを書き綴り、日本文学・文化を研究する目で自国ロシアを振り返っている。
目次
春の章―二月二十八日~五月三十一日
夏の章―六月三日~八月十八日
秋の章―九月二日~十一月三十日
冬の章―十二月四日~二月二十八日
日本滞在の記
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
秋津
5
ロシア語版『源氏物語』訳者の日記をまとめた一冊。日常や出版までのあれこれに加え、物語についても「紫式部は自然を人間から離れてそれ自体価値あるものとして描写することはほとんどしていない」、「彼女(注 末摘花)は多くを理解できないがゆえに幸福であり、彼女の世界が非常に限られたもので、彼女は少しのもので満ち足りることで幸福なのだ」などなどの指摘も。後は折に触れ俳句を詠む抒情的な側面と、御自身の苦労によるものか、官僚的な組織や、独りよがりな愛国主義、民族主義に対する批判的・冷淡な側面が同居しているのが素敵な感じ。2014/08/17
mimm
3
日本人以上に日本の文学を愛し、通じている著者様。翻訳の苦労とは別に、当時のロシアの情勢(物資不足や政治思想など)が生生しく伝わり、そちらも興味深いです。何度も来日を望みつつ、出国を却下されたようですが、来日が叶った章があり、なんだか読んでるこちらも嬉しくなりました。ちょいちょい挿まれるエッセイにはっとさせられるものも多く、ああ、心の美しい人ってこういう人のことを言うのね、と。四季別に纏められ、日付順により時系列の乱れが気になるものの、それを超える日常描写が素晴らしいです。2011/06/06
IoIo
2
久々におもしろい本だった。本著は13年間にわたり源氏物語をロシア語訳した女性の随筆である。源氏物語の翻訳の考察・苦労はもちろんのこと著者自身の生活などがつづられている。まさに日記である。ロシア語翻訳にあたる苦悩――和歌をどう訳すのか、ロシア語に対応語のない生活儀礼をどう訳すのか、などが興味深かった。自分の目に映るものを純粋にとらえる著者の感性の鋭さに圧倒された。うんうんとうなずいてしまう所も多々あり、単なる回顧録ではない。願わくばこの著者のロシア語版源氏物語を読んでみたい。有意義な読書だった。ありがとう2013/05/07
はにわんこ
1
とても良かったです🐱 ロシア🇷🇺の友達に勧めてみたいです。2021/04/07
yoshiko
0
図書館のロシア文学の棚にひょっこり追加されてた。大河効果かな。ソ連末期の著者の生活や仕事、日本文化論が混ぜこぜになっててとても興味深く読んだ。著者曰く、日本文学は自然に心情を投影する。この本の構成や文章はその試みがされてるのかな、と思う。翻訳はその文章にこの上なく没頭すること。紫式部日記を読めば紫式部と心情をリンクさせ、平安時代のなかに自分を置く。大変なんだけど、なんだかとても読んでいると羨ましくて、わたしも翻訳したくなってきた。2024/12/09