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内容説明
42歳、女は日常から逃げ出すように旅に出た。スーツケースだけを持って。辿りついたのは海辺の田舎町。北欧デンマークの日常、屈託のない人々のやさしさの中で、孤独な女の心は次第に紐解かれていく。P.O.エンクウィスト賞、“黄金月桂冠”文学賞を受賞したデンマーク女性作家、初の邦訳。
著者等紹介
ヘレ,ヘレ[ヘレ,ヘレ] [Helle,Helle]
1965年デンマーク南部ロラン島生まれ。本名ヘレ・オルセン。コペンハーゲン大学卒業後、国営ラジオで働くかたわら小説を発表。1990年代、ペンネームを「ヘレ・ヘレ」に改めてからの一連の作品で、ミニマリスト的リアリズムの旗手と目される。2005年のRodby‐Puttgarden、08年の『犬に堕ちても』で高い評価を得て、P.O.エンクウィスト賞を受賞。11年のDette burde skrives i nutidで由緒ある“黄金月桂冠”文学賞を受賞
渡辺洋美[ワタナベヒロミ]
大阪外国語大学中退。アイスランド大学卒業(bacc.phil.isl.1973)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
98
「泣くのにちょうどいい場所を探している」、という始まり。その一文で語り手の心の中にすっと入り込む。彼女の前の景色が自分の前にも広がる。頬を打つ強い風の中、ただそこにあるだけのような頼りない海辺のベンチに座ると、異国の濃い灰色の空と海しか見えない。そこでのふとした出会いから彼女の心は少しずつ何かを取り戻していく。そのながれがとても自然で、自分もその穏やかな空気に浸っているのが心地良かった。何らかの事情は自分だけじゃなく誰もが抱えている。人間味のある生活を共する中で、それを思い出すだけでも寂しさは離れていく。2023/10/01
HMax
36
「泣くのにちょうどいい場所を探している。」から始まり、一気にデンマークの日常に引き込まれてしまう。事件とも言えないような小さなことが幾つか、これは何かの伏線か、結局なにもなく、少しずつ主人公のことが明らかに。何となく日常が進んでいく好みの話し。ただし、その日常がデンマークの生活、それも北海道のオホーツク海沿いの寂れた田舎町のような場所。幸い、巻末の注と地図が、理解を助けてくれました。デンマークのリンゴ焼きは人形焼きみたいなものか?食べてみたい。2020/10/17
aoneko
29
じぶんを誰も知っているひとがいない所にいきたい。そしたらぜんぶやり直せるのに。ストーブと美味しいコーヒーと、海がある。慣れない土地に、じぶんのことを知らない、親切なひとたちがいる。雪が舞う裏庭を眺めながら、朝食にトマトと玉葱を添えたオムレツを作る。犬のケアをする。コーヒーを飲んで、話をして、きもちよく食べて眠ることのしあわせ(と健康的な生活)に感じ入る。ラスト数頁もじんわりきてしまった。なんだろう、この静かな魅力。もっと続いてもいいのに、と思うんだけど、いい映画を見た後のような満足感。2014/06/13
りつこ
24
思っていたような小説ではなかったのだが、そして面白いか面白くないかと言えば決して面白くはないのだが、好きだった。この主人公、ダメダメだなぁ。そんなにダメダメに描かれている訳じゃないけどダメダメなのが分かる。中途半端に優しかったり理解できたり共感しあえるのは、ある意味なにもないより悪い。そこらへんの中途半端さがとてもリアル。犬の末路がこの主人公のとってきた行動の結果を暗示しているように思えた。とてつもなく寂しい小説。2014/07/17
きゅー
22
不穏当なタイトルだけど、実際にはここ最近ないくらいの静かな読書の時間を愉しむことができた。決して劇的な事件は起きない。しかし、田舎町の日常や、デンマークの冬の寒さ、暖めた部屋で飲む珈琲の香りが柔らかく気持ちに入り込み、いくら読み進めても飽きない。同じような繰り返しがあるけれど、その細部が美しく、調和に満ちているため、安らぎに満ちたままページを繰る。この物語は多くを語らない。彼らの過去や未来は読者の手の届かないところにある。登場人物などという架空の存在ではなく、生きて傷つく生身の人間であるかのように。2014/05/15