感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はる
6
旧約聖書創世記アブラムの曾孫ヨセフの誕生に至る経緯から兄たちの逆恨みを買いエジプト交易の商人に銀二十枚で売られるまでが書かれている。キリスト社会はその創成神話から巧み言葉と威圧ある偶像に二分されていたことがヨセフの父ヤコブとヤコブの伯父ラバンによって表現されている。またヨセフの豊かな言葉を理解できない兄たちの場当たり的な不幸な行いと動揺が人間味豊かに書かれている。 ユダヤ人ではないマンは何故この話に十数年の時間を割いたのだろうか?と思いながら読んだ。聖書の世界は縁遠い。天地創造やモーゼの十戒程度の知識のみ2021/01/29
hachi921
6
18年かけて完成させられたトーマス・マン最大の長編。そこまで文量の無い旧約聖書のヨセフの物語を大長編に仕立てあげています。あまりにも膨大な文字量(しかも1ページ2段組!)なので随分と身構えて読み始めましたが取り越し苦労でした。マン特有の永遠に続くかのような問答が少なく、物語はまっすぐ進んでいきます。マンにしては1文1文が簡潔で短いのも、思ったより読みやすく感じた理由の一つかもしれません。2020/01/02
迦陵頻之急
0
旧約聖書の物語に基づく近代小説。神話世界を合理主義によって再話したものではない。まして、有難い聖典を忠実に、読み易く物語化したものではさらにない。古代人の、夢の中で生きているような時間感覚、個人の自我や記憶が、祖先のそれと混じり合い、自らの経験が歴史や伝説の世界と地続きになって行くような、集合的無意識の精神世界を描く。アブラハムの子イサク、その子ヤコブ、さらにその子ヨゼフ、それが本当に直接の父子なのか、あるいは同名の遠い祖先の記憶と混交しているのかも定かではない。神話的「ブッデンブローグ」と言うべきか。2024/06/03
DEN2RO
0
神と人間の関係が父と子の関係に反復され、過去が現在に重ねられ、未来にも起こることとして夢に見られます。神の意志が族長ヤコブとその寵児ヨセフを通じて顕現するという旧約聖書の物語をマンは徹底的に書き尽くします。「第一部ヤコブ物語」・「第二部若いヨセフ」。2023/05/23
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- 和書
- 鉄道員 集英社みらい文庫