出版社内容情報
「トーチャン、音楽って言葉なんだ!」--英語がわからない父親と日本語がわからない娘が、オーストラリアの地でつむぎ、響きあう、言葉と音楽の物語。
内容説明
“Speak English!”ちゃんとしゃべって。メグが大声でそう叫び、崇は口封じのひとことに動けなくなった。今まで、このひとことを何度叫ばれたことだろう。言いがかりをつけてくる客、雇用斡旋所の係員、そして、通りすがりの見知らぬ他人…。しかし、娘のそれには大人が口にするときの悪意は皆無だった。そこにはただ、純粋な懇願だけがあった。その奥底には、意志疎通を求め、会話を、言葉を欲しがっている小さな女の子と、やもめ男ののっぴきならぬ事情と、彼ら親子のただならぬ状況が横たわっていた。叫んだあと、メグはトーチャン、トーチャン、トーチャン、と甘えたようにすり寄ってきた。英語がわからない父親と日本語がわからない娘が、オーストラリアの地でつむぐ言葉と音楽の物語。
著者等紹介
岩城けい[イワキケイ]
大阪生まれ。『さようなら、オレンジ』で2013年、第29回太宰治賞を受賞しデビュー。同作で、第8回大江健三郎賞受賞。2015年に刊行された『Masato』で、第32回坪田譲治文学賞受賞。オーストラリア在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
モルク
129
オーストラリアで日本食店のシェフをしている崇。3才の娘メグを残しフランス人の妻が急逝、そこから日本語のトーチャン崇とフランス語英語の娘メグの奮闘が始まる。5才でバイオリンを習い始めたメグ、メキメキと上達し…コンクール、音楽科のあるスクールへの推薦の話…仕事をしながらのトーチャンの献身的なサポート。更に店主であり親友の瑛二の存在なしでは語れない。音楽は言葉、崇はメグの、メグは崇のサウンドポストだった。でも崇はメグに日本語の素晴らしさ、メグ(恵)の意味を教えてあげてほしかった。2022/10/06
ゆみねこ
96
英語が不自由な父と日本語がわからない娘の物語。オーストラリアの地で、3歳の娘メグを残し妻のエリースが亡くなる。日本料理店で働きながら娘を育てる崇。メグはヴァイオリンと出会い崇はそれを支え続ける。崇の同僚の瑛二、ルーシー先生やセルゲイ先生に見守られメグの才能は開花して行く。ヴァイオリンの最も大事な部分がサウンド・ポスト、メグの人生のサウンド・ポストは父の崇。良い物語を読んだ。岩城けいさんの作品で最高、お薦めです!2022/10/24
☆よいこ
91
父娘の音楽物語。オーストラリアに住む日本食料理人の崇(たかし)はフランス人の妻が病死し、3歳の一人娘をひとりで育てる。慣れない育児と妻を亡くした悲しみにくじけそうになるが、仕事仲間の瑛二(えいじ)の協力でなんとか娘メグと向かい合う。メグがバイオリンを習い始め、父娘は二人三脚で音楽に打ち込む。音楽経験者の瑛二もサポートする。英語が得意でなく基本無口な料理人の崇は、音楽を通じて娘と心を通わせる▽こんなのラスト泣くに決まってるやん。一歩間違うと子育てBLなるやん。「チャンチャン」はトーチャンとエーチャンの略かw2022/07/26
ひらちゃん
70
肌の色も言葉も何もかも…。母を亡くした父と娘の言葉は音楽だった。報告は母親が1番、だけど父親にだってちゃんと伝わる。世の親にもいえてるね。トーチャンがメグに与えたのは深くて誰にも出来ることじゃない確かな愛情だ。時にはエーチヤンがピリッと言ってくれて二人のお父さんがいるみたい。メグの幸せを心からエリースも喜んでるに違いない。最後は予想しちゃってたけどずるいなあ。涙が止まらないよ。2022/08/15
pohcho
64
オーストラリアの和食店で働く日本人男性。フランス人の妻を病で亡くした時、残された娘はたったの3歳だった。英語の拙い父と英語しか話せない娘。共通言語を持たない父娘だったが、娘がバイオリンを習い始めたことでその世界は豊かに広がっていく。周囲の人々にも支えられ、娘は明るく優しい女性へと成長。不器用で口数の少ない父が、ただただ娘の幸福を願い、娘に寄り添い生きようとする姿に心打たれる。最後、ちょっとそれはないよと思いつつも、感動作だった。2022/08/18