出版社内容情報
「遠吠えを、ひろっているんです」彼は水色の左目を光らせた。……消えていった音、使われなくなった言葉を愛し収集する人たちと作家・吉田さんの小さな冒険譚。
内容説明
消えゆく音と忘れられた言葉。それらを愛し収集する人たちのささやかな冒険譚―。
著者等紹介
吉田篤弘[ヨシダアツヒロ]
1962年東京生まれ。作家。小説を執筆するかたわら、クラフト・エヴィング商會名義による著作とデザインの仕事も行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょろこ
150
せつなさにのみこまれそうになった、一冊。まずページを開き、行き先さえもわからずに文字を追い始める。吉田さんが描く世界、紡ぐ言葉に何も考えず、ただひたすらたゆたい、心地良さを感じていたら…。この物語の終着駅とも言える場所で、一気にせつなさにのみこまれそうになった。二人の、まるで二人だけのためにしか当てはまらない“偶然”という言葉がたまらなく心に襲いかかる。この封印された言葉の音を永遠に聴けるのは そう、きっと あなただけ…なんですよね。涙ひとすじ。あぁ、こういう物語、せつなくて最高に好きだ。2020/07/31
風眠
107
かつてそこに存在した音。それは言葉にできなかった声、胸に置いたままの想い。そういう音の残滓を「遠吠え」と呼び、採集する青年。心の中にある本当の気持ちを、言葉ではなくバッテンに封じ込める老先生。人の心は複雑で、どの言葉にも当てはまらない想いが多すぎる。書き出しを読みページをめくる。見開きのモノクロ写真、そして各章のタイトルが現れる。まるで映画のような演出。相手を欺く事でしか、本当の想いを綴れなかった老先生と、代書屋の夏子さんの恋。愛を封印した最後のバッテンは、最高にロマンチックで、キザで、××で、××で、、2019/02/03
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
106
☆5.0 彼方から聴こえる音は忘れられた言葉を写しだす鏡。偶然が紡ぎ出す必然の恋物語。2021/03/06
kana
93
はぁぁいいぃぃと何度もため息の漏れる幸せな読み心地。純文学のそれというよりは、冬のお布団の離れがたい暖かさとか偶然見上げた夕焼けの空の素晴らしさとか、著者の本は日常の愛おしいものを美しい言葉と装丁で真空パックしたみたいな魅力がある。声ならぬ音に耳を傾ける冴島さんと辞書から抜け落ちた言葉を収集する白井先生と小説家の主人公と編集の茜さんとその友達の代筆屋の夏子さんと。一緒に言葉を巡るささやかな大人の冒険を楽しみながら、私自身も言葉にできず伝えられなかった、粉々の破片のような気持ちを思い出して胸がぎゅっとなる。2018/12/15
aki☆
77
とても独特な雰囲気の作品だった。改めて見るとタイトルまで!封印された言葉を集め続けた白井先生、「遠吠え」を集める冴島君、「音の小説」を依頼する編集者の茜さん、茜の友人で代書屋の夏子さん。主人公吉田さんと個性的な登場人物たちとで織り成す不思議な世界感にいつまでも包まれていたくなる。先生の書いた千通もの恋文が切ない。でも一冊の本に声がある様に手紙の数だけ物語があり声があると思うと素敵だ。そしてラスト、唯一の偶然に宛てた「天狗の詫び状」に心震え、最後の「バッテン」に思わず涙。想いが届いているといいな。2020/08/24