内容説明
山口の文化史的な思考が縦横に展開された特権的なフィールドが「道化」であった。古代民俗から中世世界を経て現代の映像・メディア文化にいたる「道化」のあらゆる表象をとりあげ、伝統社会、東洋、西洋を横断する文化史的な見取り図を示したこの一群の研究は、すでに二十世紀思想史における大きな人類的資産の一つである。しかも山口道化論は、近代知識人のありうべきスタイルと機知とを実践的に示すものとしても、きわめて独創的である。本巻は、道化研究によって、自らの思想の方法論としての「道化」性を宣言する、自己表現の熱きマニフェストとしても読むことができる。
目次
第1章 アルレッキーノの周辺(コンメーディア・デラルテ『二人の主持ちのアルレッキーノ』;科白とマイムの意味論 ほか)
第2章 アルレッキーノとヘルメス(アルレッキーノの起源論;アルレッキーノの民俗 ほか)
第3章 アフリカ文化と道化(社会構造と道化的行為;演劇的行為としての「ジョーク」 ほか)
第4章 黒き英雄神クリシュナ(始原児クリシュナ神とヘーラクレース;クリシュナ、ヘルメス、ヘーラクレース ほか)
第5章 アメリカ・インディアンと道化の伝統(蘇るインディアン;道化と想像力 ほか)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
白義
9
ダークナイトのジョーカーには、その行いの悪辣さにも関わらずというか悪辣さゆえに、圧倒的な開放感を感じるキャラだった。相変わらず情報量が異常過ぎて脳みそが沸騰しそうになるけどよくぞここまでといいたくなるくらい道化の痛快さ、根源性に迫った文化論。その混沌礼賛、トリックスター的精神の支持を考えると一番山口昌男らしい論考かなとも思える。ヘルメスからクリシュナ、インディアンの道化にそしてピエロまで、硬直した世界に混沌を吹き込み再活性化させる道化の魅力が詰まった本だ2012/07/10
梟をめぐる読書
5
論の対象がアフリカ神話であれアヴァンギャルド芸術であれ、山口昌男の主眼が常に「トリックスター」的な精神の体現者に置かれていたこと、また氏の特異な文体の狙いそのものが体系立った学問的秩序への反抗と撹乱にあったことを考え合わせると、やはり最初に読むべきはこの巻だったかもしれない。ここでの著者は、インド神話の世界からシェイクスピア喜劇、はたまたアフリカ民族文化の習俗まで、あたかも遍在する〈眼〉のようにして無数のジャンルを越境しながら、「道化」(=トリックスター)のもつ属性と魅力を徐々に明らかにしていく。2012/12/31