出版社内容情報
惨劇は時の政権の度重なる?で封印され、さらなる悲劇を生んだ──。世界から圧倒的讃辞を集めた歴史学の大著、新版あとがきを付して待望の文庫化。
内容説明
強制収容所で殺害された人の数は500万とも600万とも言われる。だがナチスとソ連、二つの全体主義国家に侵略されたこのブラッドランド(流血地帯)では、収容所の外で数層倍の人間が殺された。ヒトラーが死に、戦争が終わってもなお人々は翻弄されつづけた。戦勝国ソ連は「大祖国戦争」の名の下に、この地で起こした大量殺人の隠蔽を図った。そのための粛清と、吹き荒れた民族浄化の嵐はさらなる犠牲者を生んだ。国家権力が引き起こした未曾有の惨劇は、いまなおこの地に暗い影を落としている―。アーレント賞ほか数々の国際賞を受賞した傑作歴史ノンフィクション。著者による新版あとがきを付して待望の文庫化。
目次
第7章 ホロコーストと報復と
第8章 ナチスの死の工場
第9章 抵抗の果てに
第10章 民族浄化
第11章 スターリニストの反ユダヤ主義
結論 人間性
著者等紹介
スナイダー,ティモシー[スナイダー,ティモシー] [Snyder,Timothy]
1969年、アメリカ合衆国オハイオ州生まれ。イェール大学教授。専門は中東欧史、ホロコースト史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
74
下巻は独ソ戦からドイツの敗北を経てスターリンの死までが描かれる。独ソ戦というとどうしてもスターリングラード攻防戦等主戦場に目が行きがちであるが、ここではその二つの国家に挟まれた部分で何が起きていたかが語られているのだが…。虐殺の様子やパルチザンの抵抗が描かれているが、ソ連とナチス・ドイツというどっちが来ても地獄的な状況が絶望感をさらに深くしている。1400万人、殺された人間の数であるが、文中に描かれた個人の様子を読むと彼らが統計ではなく個人である事に理解が及び、その度に重い石を飲んだような気分になるな。2023/03/01
キムチ
44
スイス山中で発見された男の骨。人類史上初の狙撃によるモノ?だったが・・時を経て15C大公国統一がなったかの国がここまで広大な領地を保持し続け あくなき権力の妄執に取りつかれ続けるとは。。世界史上最悪の権力者の一人スターリンが独と繰り広げたブラッドランド。降った血の雨。1400万人が軽々と地球から消えた(もっとも今だに露はそれを認めないが)「モロトフ=リッペントロップ線」東欧、特にポーランドの人々が認ずるこの名称の意義を日本人は伺い知れぬか。読後、私が生まれた日本は東洋の海に浮かぶ夢の国だと思えた。しかし2024/01/07
秋良
24
独ソ戦から終戦、スターリンの死去まで、何かと理由を捻り出しては虐殺を繰り返す。恐らくは戦況の変化も要因の一つなのだろうけど、殺害のみに焦点が当てられそちらは読者が知識で補うしかない。結論では被害者意識が初めにあったことを指摘し、負の歴史への対峙について「歴史を道徳劇に貶めることによって人が正しい道を歩むようになるとは、とうてい思えない」と警鐘を鳴らす。日本は敗戦国で、空襲や被曝について教えられる。他人事ではないとはっとする。深淵を覗く時、深淵もこちらを覗いている。それでも私は、彼らの心中を覗いてみたい。2023/07/18
ちゃま坊
21
著者は歴史は繰り返されないと言っている。だが今やっている戦争をどうしても連想してしまうのだ。例えばポーランドで起こったある事件の所で、ユダヤ人をパレスチナ人、ドイツ軍をイスラエル軍、パルチザンをハマスと入れ替えた情景が浮かんでしまった。同一ではないし新たな歴史の始まりなのだが、とても良く似ている。権力者の弁明までも似ている。報復の100倍返しで子供たちが殺される情景はだれも見たくない。未来は過去の反省によって良いものにしていかなければならない。2023/12/04
A.Sakurai
9
1933年から45年の相次ぐ大量殺人は戦闘による被害を上回る1400万人.なぜこんな事態になったのかを考察する.アーレントの「全体主義」では強制収容所をモデルにした人間性の疎外を挙げているが,実際の殺人は現地での銃殺,専用の殺人施設が多く,適用できないという.筆者は被害者,加害者,傍観者,指導者にそれぞれのメカニズムがあったとして説明をしているが,腑に落ちるもののあれば,ピンとこないものもある.しかし,共通して自分を被害者だと主張するのは特徴的だ.指導者を含めて皆が自分を被害者と言い出したら危険なのだ.2022/11/21