出版社内容情報
西欧近代において、古典力学はいかなる世界を発見し、いかなる世界像を作り出し、そして何を切り捨ててきたのか。歴史形象としての古典力学。
内容説明
ニュートンの力学は、ダランベールやラグランジュ、ラプラスによって数学的に改鋳され洗練されることで今日言う「ニュートン力学」へと変貌を遂げた。また地球の運動をほぼ完全に解明し、太陽系の安定性を理論的に証明することによって万有引力論への懐疑を一掃した。それは同時にニュートン自然哲学の根底にあった神学原理を物理学から追放することでもあり、ここに力学的世界像は確立される。しかし力学的自然観は、場の理論の登場で19世紀にその限界を明らかにする。そのことは、光や電磁気現象の力学的解明を目指したケルヴィン卿の挫折に示される。著者一連の科学思想史の原点、記念碑的著作の待望の復刊。
目次
第10章 地球の形状と運動
第11章 力学的世界像の勃興
第12章 ラグランジュの『解析力学』
第13章 太陽系の安定の力学的証明
第14章 力学的世界像の形成と頓挫
第15章 ケルヴィン卿の悲劇
著者等紹介
山本義隆[ヤマモトヨシタカ]
1941年大阪府生まれ。東京大学理学系大学院博士課程中退。科学史家、駿台予備学校物理科講師、元東大闘争会議代表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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やいっち
73
本書は、1981年に刊行(書かれたのは1977ー1988年)されたもの。40年ぶりの再版。(文庫版あとがきでの)筆者によると、読み返してみて、多少は書き足りない、あるいは今なら違う風に書くだろう部分もあるが、若いからこその勢いもあって、読み応えがあると。実際、理系には(も)門外漢の小生だが、数式は素通りしたが、本文はじっくり楽しめた。退屈さは感じさせないのは、著者の言う当時の勢いなのか。2021/04/26
南北
42
18世紀に入り、「力」と「運動」がすべての自然現象を解明する基本概念とされるようになり、力学的決定論が生まれてくるが、電磁気学や熱力学に対してうまく適用できないことがわかってくる。本書には多くの数式が記載されているが、とうてい理解できたとは言えないが、引用された科学者たちのことばは大変興味深く読むことができた。自然科学が進歩史観の言うような右肩上がりで進んできたものではないことがよくわかる。2021/07/04
maqiso
4
オイラーが地球の形状を計算し、ラグランジェが解析力学でエネルギー保存則や最小作用の原理を導き、ラプラスが摂動計算から太陽系の安定性を証明したことで、力と運動で世界を説明する力学的世界像が生まれた。汎力学的法則観にはデカルトの合理主義・演繹主義が色濃い。熱を原子の運動で説明することにはエネルギー論から批判が起きた。ファラデーが発見しマックスウェルが定式化した電磁気現象は場を認めないと説明できないが、ケルディン卿は力学的モデルを構築しようとして失敗した。市民社会と科学のつながりはもっと詳しく見たい。2021/12/26
yanagihara hiroki
2
ケルビン卿の「私の50年間にわたる科学の進歩への努力は全て失敗であり、50年前に学生諸君に教えようとした以上には現在も知っていない。」という悲痛なメッセージを最終章に持ってきた著者の強い思いを感じる。我々が科学史の「勝者」をもてはやし、勝者の果実を身につけることを「勉強」であると勘違いしている中で、ケルビン卿や様々な機械論者のような偉大な天才がwhy?を諦めることなく統一理論に挑み、そして散っていったその「筋を通していく力」にこそ学問の原動力があるのではないか、という根源的問いかけになっている。2022/12/06
げんき
2
下巻では解析力学による古典力学の完成、そして電磁気学・熱力学の出現による挫折が主に描かれる。たとえば「特殊相対論によってエーテルの存在は否定された」などと教科書にはよく書かれているが、そもそもなぜ「エーテル」の存在が19世紀の物理学における主要な問題となったのかについてはよく分かっていなかった。古典力学の時代の巨人たちの問題意識を現代の読者にも十分わかりやすい形で生き生きと提示してくれる良書で、高校生〜大学低学年くらいの頃にこれを読んでいればもっと物理学に夢中になっていたかもしれないと悔やまれる。2021/04/24
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- 和書
- 実験潰瘍 〈30-2〉