出版社内容情報
貧農から皇帝に上り詰め、巨大な専制国家の樹立に成功した朱元璋。十四世紀の中国の社会状況を読み解きながら、元璋を皇帝に導いたカギを探る。
内容説明
疫病と政治的混乱の中、最下層民でありながら皇帝にまで登り詰め、約550年に及ぶ明清王朝の礎を築いた朱元璋。何がこの偉業を可能にしたのか。それは「聖賢と豪傑と盗賊の性格をかね備えていた」と清の智者・趙翼が指摘した資質によるものが大きいだろう。紅巾軍に身を投じた当初は盗賊の活動をし、地方政権を樹立するとひとかどの豪傑となり、皇帝となってからは諸々の制度を定め聖賢の働きをした。しかしこの三つの性格は時系列ではなく同時に併存していたのであり、治世中の残忍極まる大粛清も「聖賢」の紛れもない一側面であった。歴史上類を見ない巨人のドラマを、膨大な史料で描き出す。
目次
順帝とその時代
元末の反乱と紅巾軍
朱元璋の生い立ち
紅巾軍の中へ
金陵を目指して
浙東地方の経略
呉王への道
最後の決戦
中華の回復
明帝国の内部矛盾
朱元璋の苦悩
独裁体制の確立
恐怖政治の拡大
明王朝よ永遠なれ
著者等紹介
檀上寛[ダンジョウヒロシ]
1950年生まれ。神戸市出身。京都大学文学部東洋史学科卒業、同大学院文学研究科東洋史学専攻博士課程単位修得満期退学。現在京都女子大学名誉教授。専門は明代政治史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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崩紫サロメ
26
以前読んだ白帝社『中国歴史人物選 明の太祖 朱元璋』(1994年)の文庫版。引用史料の出典を明記したり、多少の手直しはあるが、基本的には原著のままであるという。貧農から皇帝へ、朱元璋の生涯と丹念に描く。近年『陸海の交錯――明朝の興亡』(岩波新書、2020年)を執筆した著者であるが、本書では朱元璋の対外政策を特徴付ける海禁について全く言及していない(文庫版あとがき)など、著者の、また中国史学会の関心のあり方の変化も感じられる。2021/07/02
さとうしん
25
朱元璋の生涯のうち、明王朝成立までの前半生にかなりの紙幅を割いているという印象。疎まれても疎まれても郭子興を支え続けた青年時代から、劉基・宋濂ら江南の知識人に啓発されて自らも儒教的素養を身につけていくも、生え抜きの裏切り、知識人への不信から、「恐怖政治」に邁進していく様子を描く。ひとりで聖賢・豪傑・盗賊の三要素を兼ね備えていたとされる朱元璋、一般的なイメージとは遠そうな「聖賢」の部分も、暴君という通俗的なイメージと重ねつつうまく描き出せている。2020/09/19
ゲオルギオ・ハーン
23
1994年に刊行されたものに修正を加え文庫化した一冊。明を建国した朱元璋の一生を丁寧に書いている。個人的に面白かったのは元を北方に追いやり、中国を統一してからの治世で、儒教政治を目指し、挫折し、功臣たちも容赦なく処断する恐怖政治に移行する過程についての分析が興味深かった。戦争であれば敵との相対的な出来不出来で勝敗がつく。その点、優れた指導者であった朱元璋は群雄どころか元朝の中枢よりも抜きでた存在のため、常勝将軍として天下統一を短期間で果たした。ところが、統治となるとそうもいかなくなる。2020/11/27
MUNEKAZ
23
朱元璋の評伝。ネット上だと苛烈な粛清を行った暴君の側面ばかりが語られがちだが、なぜ彼がそのような政策を行ったかを、著者なりに解き明かす。元末の混乱期に貧農の息子から、反乱軍の頭目、そして皇帝へと登り詰める中で、自らが学んだ儒教的な聖代を実現させるため、恐怖政治に突き進む皮肉な姿が描かれる。人々におのれの分をわきまえさせる他律的な支配は、混乱を鎮め、民を思いやる気持ちから起こったものとはいえ、徳治からは程遠いもの。たたき上げの人ほど苦労した分だけ、他人に厳しいというのを地でいく方だという印象を持った。2020/09/25
ようはん
18
何で朱元璋はあそこまでの粛清をしでかしたのかという疑問を持って読んでみたけど、とにかく政治に対しては理想主義者かつ完璧主義者というのが皇帝に即位した後の朱元璋の人物像のイメージ。元末期からの弊害であった官僚や地主の不正や腐敗を許せず、傲慢気味になってきた古い功臣への不満や疑念といった辺りから粛清が始まったのは全く理解できなくもないがやはり上記の性格故に必要以上に粛清に苛烈になり過ぎたとしか言いようがない。2021/07/31