出版社内容情報
昭和40年、絶海の孤島・鳥島は大地震の危機に晒されていた。前兆に脅える技術者の心理を描く中編表題作の他2短編科学小説を収載。解説 熊谷達也
内容説明
昭和40年11月、気象庁の観測所が設置されていた絶海の孤島・鳥島は、巨大地震の危機にさらされていた。無気味な大地の鳴動、鼻をつく異臭。直下型地震の前兆に脅える技術者とリーダーは、死の恐怖と組織の論理に板挟みになっていた―。中編表題作のほかに2短編科学小説を収載。リアリスト新田次郎の眼が冴えるドキュメンタリー小説集。
著者等紹介
新田次郎[ニッタジロウ]
1912‐80年。長野県上諏訪生まれ。旧制諏訪中学校、無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、1923年、中央気象台(現気象庁)に入庁。1935年、電機学校(現在の東京電機大学)卒業。富士山気象レーダー(1965年運用開始)の建設責任者を務めたことで知られる。1956年『強力伝』で、第34回直木賞受賞。1974年、『武田信玄』ならびに一連の山岳小説に対して吉川英治文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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あすなろ
91
毎年3月11日前後には地震関係の本を読む事にしている。更に今年は1月17日にかつて起きた阪神淡路大震災から30年でもあり、複数読んでみたいと考えている。鳥島が舞台の中編である本作は、正直言って最初は読みづらい。しかし、後半となりそれぞれの組織の中での個の葛藤を交え、地震と火山噴火の恐怖と鳥島という特異な地理的要件の中で手に汗握りながら仕事というものを考えさせてくれたのである。新田次郎氏が長年気象庁に勤務されていた事は熊谷達也氏の解説で今回初めて知り得たのであるが、独特の内容と擬似体験をさせてくれたのである2025/02/02
100
55
表題作は噴火危機せまる火山島で、気象観測に携わる人達の撤退行止のせめぎ合い。映像的な描写と共に描かれる、離れた本庁と現地の認識と切迫感の差、現地内の責任感・恐怖・執心の交錯。結末も含め少し消化不良の感。他2編が素晴らしく、技術と生物が分離しきっていない時代の不思議な感触。限られた人毛に頼る「毛髪湿度計」、感と経験と偶然が成しえる「ガラスと水銀」の転倒寒暖計、いずれも死の匂いつきまとうザ・昭和文学。2025/01/03
カツ
10
久しぶりの鳥島モノ。絶海の孤島・鳥島で火山性微動が続けば、そりゃぁ駐在員は逃げ出したくなるわな。でもお役所の論理はそうは問屋が卸さない。逃げたくても逃げられないその人間ドラマが面白い。最後は脱出できたのだが、結局噴火は起こらない。観測所はこれを機に閉鎖された。その他に温湿度計に関する短編が二作。こっちはなんか不思議な味わいの話でした。2025/03/24
あきひと
10
8合目から上が海の上、7合目から下は海中にあるという火山島の鳥島に地震と火山性微動が続き、噴火がいつ起きてもおかしくないと思える状況の中、半年交代で詰めている気象庁観測員ら50名の脱出劇。 新田さんは、彼らの職責と恐怖との葛藤を淡々と書くだけなのだが、ハラハラドキドキ感が半端でなく、自分が観測員になって、自分だったら誰と同じ行動を取るのかを想像しながら疑似体験できるところがすごく良い。その他短編2篇も面白い。2024/12/08
タカボー
8
話の進行がかなりゆっくりなんだけど、終盤に向かって緊迫感が加速していく感じ。「早く、急いで!」って声上げそうになるし、要らない行動する奴がいて張り倒したくなる。それぞれ立場の異なる主人公が何人かいることで、読みながら感情を入れる相手がコロコロ変わるのが楽しい。それ以上に最後の「ガラスと水銀」が相当良い。共通するテーマは「間に合ってくれ!」かな。2024/12/16