出版社内容情報
わたしが愛した「やさしい故郷」は日本が奪った国だった。1927年・植民地朝鮮に生まれた作家の切なる自伝エッセイ、待望の復刊。解説 松井理恵
内容説明
人間の業を映す独自の作家活動を続けた森崎和江は、日本統治下の朝鮮に生まれた。大邱、慶州、金泉、現地で教師を務める父、温かな母と弟妹、そして「オモニ」たち―歴史的背景を理解せぬまま己を育む山河と町をただひたすら愛した日々に、やがて戦争の影がさす。人びとの傷と痛みを知らずにいた幼い自身を省みながら、忘れてはならぬ時代の記憶を切に綴る傑作自伝。
目次
序章
第1章 天の川
第2章 しょうぶの葉
第3章 王陵
第4章 魂の火
余章
著者等紹介
森崎和江[モリサキカズエ]
詩人、作家。1927年、日本統治下の朝鮮・慶尚北道大邱に生まれる。17歳の頃に単身で朝鮮を離れ、福岡県立女子専門学校へ入学。50年、丸山豊主宰の詩誌「母音」同人となる。58年筑豊に移り、上野英信・谷川雁らと「サークル村」創刊、59年に女性交流誌「無名通信」創刊。2022年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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二人娘の父
10
素晴らしい内容だった。35年もの間、他国を植民地にしていたということは、当然、植民地で生まれ育ち故郷と呼ぶ人がいるということ。著者が幼少時を振り返る視点に、支配した側としての無自覚さへの反省が通奏低音のように響き続ける。しかし悲しく切ないだけではない故郷への想いも感じることができ、朝鮮という土地への想いを感じさせられる。本当に素晴らしく、貴重な記録としての価値ももつ作品である。2025/04/26
アメヲトコ
7
1984年単行本刊、91年文庫化、23年新版。朝鮮大邱に生まれ、大邱・慶州・金泉の三つの町で17歳まで育った著者の回想録。著者にとっては朝鮮こそが故郷でありながら、その故郷とは日本が他国から奪い取ったものであり、当時としてはリベラルな環境に育った著者は成長するにしたがってその構造に気づき葛藤していきます。当時の朝鮮の風土や人々の描写の細やかさに著者の深い思いがうかがえる一冊です。2024/10/31
Ryoichi Ito
6
森崎和江は1927年韓国・大邸に生まれ,17歳まで大邸,慶州,金泉に暮らした。戦時中17歳で福岡に渡り女子専門学校に入学した。「植民二世」としての韓国経験をつぶさに記す。韓国は森崎にとって故郷であると同時に,植民者であることによる原罪意識の源でもある。森崎は,引揚者がすべて戦争の被害者であるかのような日本社会の認識に警鐘を鳴らしている。 2024/01/06
nekomurice
5
「私たちの生活がそのまま侵略なのであった」 植民二世からの立場で書かれた本を初めて読みました。「書こうと心にきめたのは、ただただ、鬼の子ともいうべき日本人の子らを、人の子ゆえに否定せず守ってくれたオモニへの、ことばにならぬ想いによります。」と書かれていて、胸が痛くなりました。そして弟さんの弁論「敗戦の得物」は1人でも多くの人に読んでもらいたいです。2024/09/29
クァベギ
2
植民地期朝鮮に生まれ育った森崎和江の回想。どことなくもの悲しい空気が漂う。当時は植民2世という立場だったから、幼少期を振り返るにしても故郷である朝鮮のことがなつかしいと無邪気には書けない。そういう障害があるゆえのもの悲しさなのだろう。2024/02/19