出版社内容情報
激動する大地、飛び交うデマ、虐殺される朝鮮人……関東大震災を自らの体験をもとに描いた記録文学の金字塔。解説 天児直美・石牟礼道子・西崎雅夫
内容説明
1923年9月1日11時58分32秒、関東大震災が発生。関東一帯の大地が激動し、東京は火の海になった。突然起こった惨禍に、人々は動揺し、流言蜚語が発生。「朝鮮人が暴動を起こす。火をつける」というデマにより、多くの朝鮮人が虐殺された。自らの衝撃的な体験をもとに書かれ、震災の翌年から連載が開始された記録文学の金字塔。巻末に石牟礼道子によるエッセイを収録。
目次
序
第一日
第二日
第三日
その後
著者等紹介
江馬修[エマシュウ]
1889年、岐阜県高山市生まれ。田山花袋の書生や代用教員のかたわら、創作に励む。1916年に刊行した『受難者』で人気作家となり、1926年、『追放』を執筆後に渡欧。大作『山の民』は1938年に発売されて以来、改作を重ねた(2014年に春秋社により復刊)。1975年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
103
9月1日は関東大震災から100年。テレビ番組でも特集を組んでいてそれを見つつ読んでみた。著者が実体験した 小説。記録文学となる。吉村昭氏の『関東大震災』が被害全体を描いたものとすればこの本は、根拠のない噂がやがて朝鮮人の虐殺をズームアップして描かれたものだと思う。読んでいて感じたのはこの地震と同レべルのものが東京関東におきたとき物理的な被害は当然としてSNSがどんな影響をもたらすか。フェイク画像や一部を誇張した動画がどんな影響をもたらすのか。ビルの谷間に群れる羊がどんな行動をとるのか。考えるとゾッとした。2023/09/02
yoshida
77
関東大震災の三日間と後日談を描く。関東大震災については吉村昭さんの作品で知ってはいた。実際に罹災した作家が描く作品であり、興味深く手に取る。作家の江間は代々木の自宅で震災に遇う。自宅も倒壊を免れ、幸いに軽微な被害で済んだ。目にするおびただしい火災の様子。知人の安否が気になるが、周囲も混乱に巻き込まれる。朝鮮人の暴動のデマ。植民地支配による朝鮮人の恨みを潜在的に恐れていた人々。デマは広がり自警団等による朝鮮人の迫害が起きる。所謂、虐殺とも呼ばれる事件。災害時の情報の取捨選択は現代にも繋がる。考えさせられた。2023/08/29
ケイトKATE
36
江馬修も『羊の怒る時』も私は初めて知ったが、凄い本に出会った。『羊の怒る時』は、関東大震災について書いた作品で、震災から2年後に発表された。大地震で倒壊する東京の街やデマによって朝鮮人に憎悪をぶつけ狂気と化す描写が生々しい。著者の江馬修は、朝鮮人への差別意識が強い当時、朝鮮人の知人を匿ったりするなど良識のある人で、日本人による朝鮮人蔑視や虐殺について怒りを込めて書いている。江馬修がこれまで知られなかったのが本当に不思議であった。関東大震災から100年を迎えた年を機に江馬修が再評価されることを願う。2023/08/29
kan
34
関東大震災から百年。流言蜚語は民衆の動揺と混乱と無教養から生まれる、とどうにもならない憤りと嘆きがひしひしと伝わる。人間の残虐性と、奥底の根深いところに潜む偏見と差別が、大震災という極限状態で結ばれてしまったがために発生した虐殺事件を記録する1冊。百年経っても人間は賢くなるどころか、新たな技術により情報過多になり、むしろ思慮が浅くなり誤情報に惑わされやすく、危機や変化に脆弱になった気がする。歴史を繰り返さないよう、学ぶしかないと思った。2023/10/29
まると
26
今年中に読んでおきたかった一冊。関東大震災のさなかに、なぜ朝鮮人虐殺が起こったのか、群集心理の恐ろしさを臨場感たっぷりに伝えている。社会秩序が乱れた時、潜在的だった差別意識が顕在化し、恐怖が折り重なって虐殺が肯定されていく。その過程に戦慄を覚えた。政府が虐殺を徹底的に隠蔽したそうなので、この種のルポルタージュは史料的な価値が高い。国籍を奪われ、国家の後ろ盾を失った民族への理不尽な迫害は、ナチスドイツにおけるユダヤ人虐殺とも重なり合う。自分がそこにいたならば、止めに入ることができただろうかと自問してしまう。2023/12/31