出版社内容情報
出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちた世界を先鋭的スタイルで描き、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げた最初の傑作。解説 皆川博子
内容説明
城の地下牢に囚われた女、名前も顔も知らないがこの世界のどこかに存在する絶対の敵、いつ終わるとも知れぬ裁判、頭の中の機械、精神療養所のテラスで人形劇じみた場面を演じる人々…。自身の入院体験にもとづく表題作をはじめ、出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちた世界を先鋭的なスタイルで描き、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げた最初の傑作。
著者等紹介
カヴァン,アンナ[カヴァン,アンナ] [Kavan,Anna]
イギリスの作家。1901年、フランスのカンヌ生まれ。ヘレン・ファーガソン名義で長篇数作を発表後、『アサイラム・ピース』(’40)からアンナ・カヴァンと改名。不安定な精神状態を抱え、ヘロインを常用しながら、不穏な緊迫感に満ちた先鋭的作品を書き続ける。世界の終末を描いた傑作『氷』(’67)で注目を集めたが、翌68年に死去
山田和子[ヤマダカズコ]
1951年生まれ。翻訳家・編集者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
青蓮
100
不安定な精神を抱え、ヘロインと小説を書くことを拠り所としていたアンナ・カヴァン。13の短編を収めた本書はどの作品も不安、焦燥感、恐怖、絶望、孤独がつき纏い、不条理に支配されているのにも拘わらず、何か冷然とした美しさを感じられずにはいられない。アンナ・カヴァンの作品に惹き付けられ、共振し、楽しめるというのはある意味1つの特権なのかもしれない。表題作はクリニックに関わる人々を描いたものだけれど、保護施設というよりは清潔な監獄を思わせる。クリニックにいる人達は果たして外に出ていけるのだろうか?他の作品も読みたい2019/08/12
HANA
82
再読。収録作中の「敵」を読んだ時の衝撃は今も忘れられない。この世界のどこかに存在する絶対の敵にいつ果てるともわからない裁判とカフカを思わせる不条理が襲ってくるのだが、やはりこの著者は直接的でもっと心に響く。前に読んだ時は終わりが来るのは明らかなのにその終わりにはいつまでも到達せず過程だけが延々と続くという印象を受けたのだが、今回もそれは変わらず。終わりというのはある意味安息で苦しみがいつまでも引き延ばされるのは本当の地獄じゃなかろうか。この話を自分の物語と思えるのだが、多分それは不幸な事なんだと思う。 2019/07/26
えか
79
冬の美しい朝でも、久しぶりの友人との愉しみにしていた夕食でも、それどころか、朝からついていない碌でも無い日でも、彼女の作品には、ある一点から崩壊が始まる、臨界点、というものがある。その原因は、待ちに待っていたはずの手紙であったり、頭の中で、カチャリという機械音であったり、相手の男性の目線だったりと様々だが、必ず、彼女の足元から冷たくエネルギーの感じられない世界が拡がっていく。カヴァンの世界は、無機物が、絶対零度の中で全ての運動を停止した、時間だけがすぎていく世界である。凍りついた不条理。 2024/11/19
かりさ
77
静かな残酷さと狂気をまとった幻想の紡ぎ。光を認め希望の形に手を差し出すも、それは儚くほろほろと崩れ落ち絶望となる。絶え間ない不条理と覚めない悪夢が私の闇と寄り添ってくれ、“ 私の居場所である下の世界へ”と降り立つ。どうしようもなく孤独で、冷たい霧の中でただ震えている様、見えない敵に突然襲われたり、頭の中の機械に仕え続ける…実際に精神を崩壊した経験のあるカヴァンだからこそ、その心理描写は逃げ場はなくリアルに迫ります。皆川博子さんの言葉「カヴァンを「読む」ことを必要とする」…私もその一人です。2019/08/15
mii22.
73
これ程心を突き刺されるような痛みを感じるのはカヴァンの悲痛な叫びだからなのか。冒頭からの数篇で何かに追われるような不安と戸惑いと恐れを感じざわざわと心を乱され、中篇「アサイラム・ピース」ではこの美しく冷たく決して逃げられない場所の囚われの身となる。孤独でたまらなく淋しい私となんとか平静を保とうとする私が葛藤する。外から見れば申し分なく恵まれた美しく居心地良さそうにしつらえられた環境でも、内からみれば牢獄のような自由を奪われ閉じ込められ深い絶望の淵に落とされる場所。『氷』同様圧倒的に静謐で美しく冷たい世界。2019/10/22