内容説明
「他者の未知の感受性にふれておろおろするじぶんをそのまま晒けだしたかった」という著者のアート評論。かすかな違和の感覚を掬い取るために日常の「裂け目」に分け入り、「見る」ことの野性を甦らせるアートの跳躍力とは。アート、演劇、舞踏、映画、写真、音楽、ファッションなどについて、「ここにあるものを手がかりにここにないものを思う」評論集。
目次
0 見えないものを見る
1 壊れたもの―日常のがらくたのなかから
2 塞がれたもの―困難な自由について
3 棄てられたもの―時を行き来する
4 見失ったもの―意味のゼロ還元?
5 消え入るもの―“顔”
6 忘れてはならないもの
7 限界へのまなざし
著者等紹介
鷲田清一[ワシダキヨカズ]
1949年京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。大阪大学・京都市立芸術大学名誉教授。せんだいメディアテーク館長。専門は哲学。現象学をベースに、臨床哲学、モード批評などを幅広く展開する。著書に、『「聴く」ことの力―臨床哲学試論』(桑原武夫学芸賞受賞、ちくま学芸文庫)、『モードの迷宮』(サントリー学芸賞受賞、ちくま学芸文庫)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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佐島楓
72
音楽や現代芸術などの評論集。「見えているのに見ていないもの」を見えるようにするのがアートであり、同時に時代を映すものでもある。今まで抱いていた感性への揺すぶりを柔らかな言葉で活写していく様は、とても誠実であると感じた。想像力を持つことがひととして最も大事なことであると言わずもがなのことを書かなくてはいけない時代になってしまった、そのことに少なからずショックも受ける。2019/05/14
阿部義彦
27
ちくま文庫。極めて無愛想でですが豊かな本です。私の地元仙台メディアテーク(図書館のような文化施設)の館長の、鷲田清一さんの芸術にかんする考察を、まとめた本です。思いつくままに、順不同に並べられたエッセンス。アートに興味のある方なら必読です。2019/11/02
奏市
22
読メの方の感想読み興味持ったんで読んでみた。哲学を専門とする著作家・学者のアート評論集。理解が追いつかない部分も所々あるが、なぜか次の編、次の編を読みたくなる微妙な病みつき感。形式化され権威あるものだけが対象であるかのような既存のアートに疑問を呈し、生み出され方、他者・社会との関係性の視点を重視し、生きることの中での意味合いを改めて問直すような内容。大切な指摘の一つとして、その人が何もできなくてもただそこにいるだけでいいといかに肯定できる自分になれるか、社会にできるか。無茶苦茶難しい事だな。/図書館より2020/11/01
だーぼう
22
想像力は無限大。師走でごった返した繁忙期に読むにはもってこいの一冊。もう何もかもがアートに見える…ブログに感想を書きました。2019/12/18
chie
19
哲学者による実験集の様な、アート評論集。難しい言葉で書かれている訳ではないのだけれど、著者が見たもの、感じたことを、自分の言葉で復元することは難しい。その分、想像のレッスンにはなった様な気はしている。老いることへの省察には共感が持てた。ゆとりは息抜きではなく、精進の賜物という言葉にも、はっとさせられるものがある。「楽しては手に入らないのだ、《自由》という気品は。」何か月前に読んだ中島義道さんの本を思い出した。内容も文体も全然違うのだけれど、思考の回路みたいなものが似ているのではないかと思った。おすすめ。2020/03/04