出版社内容情報
唐後期、特異な建築「方壺園」で起きた漢詩の盗作をめぐる密室殺人の他、乱歩賞・直木賞・推理作家協会賞を受賞したミステリの名手による傑作集。
陳 舜臣[チン シュンシン]
著・文・その他
日下 三蔵[クサカ サンゾウ]
編集
内容説明
晩唐の長安、塩商・崔朝宏の邸内にある特異な建築「方壺園」で詩人として文名高い高佐庭が殺された。不可解な密室殺人に役人は匙を投げるが、その翌年、殺人現場で書生の呉炎が自殺したことから、驚天動地の犯行方法と虚栄と嫉妬が起こした事件の真相が明らかになる(表題作)。雄大な中国の歴史と豊かな詩情で彩られた本格推理。至高のミステリ作家・陳舜臣をたっぷり味わえる最強の傑作選。
著者等紹介
陳舜臣[チンシュンシン]
1924年‐2015年。神戸市生まれ。大阪外国語大学印度語部を卒業し、終戦まで同校西南亜細亜語研究所助手を務める。61年、『枯草の根』によって江戸川乱歩賞を受賞し、作家活動に入る。その後、93年、朝日賞、95年には日本芸術院賞を受賞する。主な著書に『青玉獅子香炉』(直木賞)、『玉嶺よふたたび』『孔雀の道』(日本推理作家協会賞)、『実録アヘン戦争』(毎日出版文化賞)、『敦煌の旅』(大佛次郎賞)、『茶事遍路』(読売文学賞)、『諸葛孔明』(吉川英治文学賞)などがある
日下三蔵[クサカサンゾウ]
1968年、神奈川県生まれ。SF・ミステリ評論家、アンソロジスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ざるこ
60
1900年代初頭のアジア域が舞台。第一部6篇は密室殺人。トリックもだけど細かい人物描写と時代背景、詩が用いられた物語は臨場感と情緒に溢れてとても美しい。方壺園のトリックは特に映像が鮮明に思い浮かび楽しくなった。第二部3篇。「スマトラに沈む」は圧巻。文人・郁達夫の生死は?日本中国インドと渡り歩き成功しても望むのは流浪の生活。思わぬ落とし穴は本人は与り知らぬ誰かの嫉妬心であるという。「紅蓮亭の狂女」の虎女は哀れながら強烈。どれも最後に加害者や第三者の心情が掬い取られるのが多く、それが深い余韻を残す。大満足。2021/02/24
geshi
34
著者の歴史への造詣の深さとミステリ愛が注がれた短編集。唐代から戦中までどんな時代でも書けてしまう筆力と、不可能犯罪を自然に入れるミステリとしてのストーリーテリング、作品の質の高いこと。特に良かったのは、意外な犯人と状況を生かした物理トリックと抒情的な終わり方が見事に溶け合わさった『九雷渓』。密室のトリック解明から展開される犯人の告白が心に残る『アルバムより』。史実を基にした親子二代のクーデター劇の面白さが犯人の存在感を際立たせる『獣心図』。2018/12/27
クラムボン
27
デビュー当時の陳さんは、第一線のミステリー作家だったことが伺える作品集だ。第一短編集の「方壺園」から全6篇、第三短編集の「紅蓮亭の狂女」から三篇を採った2018年の出版なので陳さんの没後だ。一見したところは歴史小説風。舞台はやはり中国が多い。ただムガル帝国時代のインドや戦中のスマトラや現代日本の作品もある…広くアジア各地に渡っている。個人的には、素材も小説自体も魅力十分なので、推理小説の形に拘らない方が良かったと思う。執筆時の1960年代は推理小説が流行っていた時代なので、そこいらも影響したのだろうか。2024/05/26
有理数
22
素晴らしい短編集。主に中国を舞台にしたミステリ選集で、様々な時代の「空気」が強く物語に宿っている。とにかく人間たちの交わり、文章、物語が素晴らしい。謎めいた何かしらを追いかけるうちに出会うひとたちのドラマ、嫉妬や羨望、そういった感情のどこか寂し気な迫力。特に中国詩や詩人の類まれなる才能に揺れ動く周囲の人間たちの物語が、舞台や時代、歴史の大きさに包まれるような締めくくりが続き、胸を打たれる。第一部のベストは表題作と「九雷渓」、第二部は三編とも好きで迷うが「スマトラに沈む」のクライマックスは忘れ難い。2020/11/03
そうたそ
15
★★★☆☆ 中国物の歴史小説作家というイメージのあった著者だが、その受賞歴を見る限り、そもそもはミステリ畑の人であったというのが個人的には意外な事実。本書はそんな著者のミステリを集めて編まれたものであり、思いの外しっかりとしたミステリが揃っており読み応えがあった。インパクトがあるのはやはり表題作。特異な形をした建築物での密室殺人というのがミステリ好きの心をくすぐる。動機の部分に読むべきものがある良作。後は、ツッコミどころが多いもののミステリとして愛すべき要素の詰まっている「梨の花」が個人的にはお気に入り。2022/06/07