出版社内容情報
江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞した昭和の名手、深い抒情性とミステリのたくらみに満ちた単行本未収録作品を含む14篇。江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞した昭和の名手、深い抒情性とミステリのたくらみに満ちた単行本未収録作品を含む14篇。文庫オリジナル編集。
多岐川 恭[タキガワ キョウ]
著・文・その他
日下 三蔵[クサカ サンゾウ]
編集
内容説明
過度な自己破壊衝動を持つ男は最愛の妻を得ることで生きる意味を見出したかに思えたが、主治医の男と妻の関係に疑念を抱く(「落ちる」)。うだつの上がらない万年平行員の宿直当番中に銃を持った強盗が現れた。その意外な顛末とは?(「ある脅迫」)。サスペンスからユーモア、本格推理、叙情豊かな青春までバラエティに富む昭和ミステリの傑作短篇集。単行本未収録作「砂丘にて」収録。
著者等紹介
多岐川恭[タキガワキョウ]
1920年、福岡県生まれ。東京帝国大学経済学部卒業。54年、白家太郎名義で応幕した「みかん山」が「宝石」短編懸賞で佳作入選してデビュー。58年に『濡れた心』で第4回江戸川乱歩賞を、59年に「落ちる」など3篇で第40回直木賞を受賞。94年歿
日下三蔵[クサカサンゾウ]
1968年、神奈川県生まれ。SF・ミステリ評論家、アンソロジスト(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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空猫
22
【第40回直木賞】【ミステリで読む戦後史】短編集なのでとてもシンプルなミステリばかりだ。人間描写の肉々しさと骨太な文章はこの時代(昭和30年代)ならでは、か。表題作『落ちる』の心理描写も巧みだが、お気に入りは冴えない男の逆転劇『ある脅迫』『私は死んでいる』など。埋もれた名作の復刻版は嬉しい限りだが、埋もれたのは登場する女性陣ほぼ全員の性格が悪いからか、官能描写が多いから?ともかく長編も読んでみたくなった。2019/11/20
Ayah Book
10
どれも面白い昭和ミステリ短編集。知らない作家さんでしたが、やはり昭和のミステリは男女のドロドロと海外ミステリを意識したオシャレ感がマッチしてとても良いです。好きだったのは、真の変態は誰か?「落ちる」、昭和の悪女像「かわいい女」、青春の残酷さ「みかん山」「ライバル」、子供がヤバイ「黃いろい道しるべ」、何ともやりきれない「澄んだ眼」、耽美「黒い木の葉」でした。「ライバル」が一番好きかな。2019/10/17
マヌヌ2号
7
多岐川恭の作品はほとんどが絶版で、ぼく自身数冊読んだきりだったので、こういう形で復刊してもらえるのは大変ありがたいことですね。で、本作についてですが、なるほど確かに名品ぞろいだなぁと思いました。多岐川恭のドライさというか、「まぁ人間ってこんな愚かな奴らだよね」っていう冷えた目線は初期から一貫していたんですね。それと、全体通しての特徴として、真相を二択まで絞って「さぁどちらかな」と提示している短編が多かったように感じました。そして大抵後味の悪い方に転ぶという……この作者鬼かよ……。ともあれ、よい短編集でした2018/07/15
MIKETOM
6
第40回直木賞。昭和32年。第一短編集『落ちる』七編のうち三編が直木賞対象作。それに第二短編集『黒い木の葉』六編(ともう一編)を加えたのが本書。『砂丘にて』が凄かった。殺し方も陰惨で惨いし、どっちなんだろうと息を詰めるようにして読んでたけどそっちだったか。『落ちる』屋上から突き落としたはずなのに両手を離していながら空中に浮かんでいる(ように見える)のを見ればそりゃあ失神もするでしょう。妙にユーモラスな場面。『笑う男』落ち度はないと思ってたはずなのに目の前の男が見てきたように犯行の再現をし始める。→2025/02/01
まぶぜたろう
6
貧困、女性虐待、旧制高校へのノスタルジー、嫉妬、性倒錯…、昭和ミステリーならではの暗い情念に満ちた傑作揃いの短編集。トリックを偏重せず、あくまでも動機に重きをおいているのがいい。■名高い「落ちる」「ある脅迫」(前者は神代辰巳、後者は蔵原惟繕がドラマ化、映画化し、共に傑作)はもちろん、薄幸な女性と伏線が印象的な「笑う男」歪な女性像が素晴らしい「かわいい女」貧困の中の歪んだ犯罪を描く「澄んだ眼」「黒い木の葉」リドルストーリー風の「ライバル」がお気に入り。(○○○○)2018/12/06